エースの心を動かした〝涙〟とは――。全日本大学駅伝(3日、愛知・熱田神宮西門前~三重・伊勢神宮内宮宇治橋前、8区間106・8キロ)は、国学院大が5時間9分56秒で初優勝を果たした。主将でエースの平林清澄(4年)は駒大、青学大ら名門の誘いを断って国学院大への進学を決断。その裏には前田康弘監督の存在があった。
7区を任された平林は2位でタスキを受けるも、先頭の青学大をとらえることができなかった。それでも、最終8区で上原琉翔(3年)が逆転に成功し、トップでゴールに飛び込んだ。前田監督は「8人が役割をしっかり果たしたので、総合力で日本一になれたんじゃないかな」と神妙に語った。
先月の出雲駅伝で5年ぶり2度目の優勝を成し遂げると、今大会でも頂点の座を奪取。平林に刺激を受けたチームメートも、着実に実力を伸ばしている。チームメートは常日頃「平林を倒そう」などと宣戦布告。これには平林も「いい意味でとがっている。自分も成長しないといけないと尻に火をつけられる」と苦笑いするが、チームにとっては大きなプラスだ。この日も5区の野中恒亨(2年)が区間賞、6区の山本歩夢(4年)が区間新記録をマークするなど、総合力の高さを示した。
チームに絶大な影響力をもたらす平林は全日本大学駅伝、箱根駅伝で優勝経験がなかった国学院大で、自分を磨く道を選択した。2020年の第96回箱根駅伝で総合3位に入った際の前田監督の姿が、進学の決め手になったという。
平林は「最初に前田監督のもとでやりたいなと思ったのは、あの箱根の男泣きを見てから。選手のために泣ける監督ってすごいなと思った」と当時を振り返る。導かれるように国学院大のユニホームに袖を通し、前田監督の熱い言葉を受けて2人で涙を流したこともあったという。
師弟の協力タッグで新たな歴史を刻み、早くも3冠のかかる箱根駅伝に照準を定めた。「僕個人としてもチームとしても、改善点は優勝した中でも見つけられる。歴史を変える挑戦をしっかり成し遂げられるようにやっていきたい」。箱根路でもテッペンを勝ち取り、前田監督と勝利の〝涙〟を流せるか。