鷹の韋駄天が野球人生をかけて臨んだシーズンが、ようやく終わった。ソフトバンクの選手会長・周東佑京内野手(28)は、今季開幕前に原因不明の左膝痛を発症。激痛を耐え抜き、日本シリーズまで戦場に立ち続けた。
自らの意志で中堅に専念した今季、自己最多123試合に出場。初の規定打席をクリアし、リーグ7位の打率2割6分9厘をマークした。41盗塁は12球団ダントツ。守備でも「派手さは好まない。難しく見せない。ヒヤッとする当たりをイージーに抑えられれば、バッテリーも乗っていける」という信念のもと、攻守で代えの利かない存在感を放った。
チーム内から「今年の周東は本当によく頑張った。今年にかける思いがヒシヒシと伝わってきた」という声が、どこからともなく聞こえた。誰しも身を立てるために、我慢のしどころがある。
「野球人生を考えた時に、ターニングポイントになる1年だと思った。この1年が土台になる。並の選手で終わるか、代えの利かない選手になるか。足が最後までもったか、もたなかったかで言えば、もってはいない。でも、今年は絶対にやらなくちゃいけないと思った」
毎週、毎試合、首脳陣とトレーナーらは緊密に連携。周東の意思を尊重し、客観的判断で休養を挟みながら〝シーズン完走〟を後押しした。ただ、それでも「行かせてください」と強行出場を志願した試合は少なくなかった。
器用ゆえに使い勝手のいい「便利屋」で終わる選手も少なくない。周東は「勝敗を背負える選手」を志している。常勝再建を目指すホークス。柳田、中村晃、今宮らの系譜を受け継ぐ選手の台頭が求められる中で、すべてを悟ったシーズンだった。
いつの時代もチームの屋台骨を支えるのは、精神的にも肉体的にも「強い選手」だ。うまいだけじゃなく、チームを鼓舞する、手本となる選手。「立場が人をつくる。本当にそう思います」。選手会長1年目、自身の成長を実感している。
このオフは手術を受けることを決断した。代償の大きさを物語るが「また来年の開幕からしっかり戦うために」と、その顔は責任感に満ちている。
4月に最愛の母との死別も乗り越えた。人知れず、さまざまな〝痛み〟に耐えたシーズンだった。日本シリーズ終戦翌日――。「ちょっと、ゆっくりします」と笑った顔には安堵感と充実感がにじんだ。