絹は人間と長い付き合いの繊維だが、繊維としてだけでなくさまざまな利用が昔から進められてきた。絹の成分・セリシンは健康成分、美容成分としてサプリメントに配合されたりする。さらに最近では医療分野でも活躍している。こうしたセリシンの健康・医療パワーについて専門家に取材した。
【職人の手はツルツル――注目される保湿効果】
絹はカイコから作られる繊維である。カイコは絹の生産のために育てられた昆虫であり、桑の葉を食べて絹となる糸を生み出すが、絹を作る以外にも人間はカイコを栄養として摂取したり、動物の飼料に混ぜたりする目的のために古くから育ててきた。
日本の絹は、かつては世界から求められ日本の最大の輸出品だった時代もある。その後、日本の養蚕業は縮小してしまったとはいえ、カイコは長く家畜化されて飼育されてきたため、カイコの大量飼育や大量生産を容易に行える知識を持つ地域は少なくない。そのため、絹以外の産業目的にカイコや繭(マユ)を利用する試みがさまざまなところで行われてきた。
中でも注目されたのがセリシンだ。光沢のある美しい絹になるフィブロインという部分を覆っているのがセリシンである。
「繭糸で織った布を水洗いする精錬という工程を経て美しい絹に仕上げるのですが、精錬に携わる職人の手は冬の寒い時期でも手荒れせず、いつもツルツルなんです。それは精錬で洗い流していたセリシンが美しい肌を作る成分だったことが研究で判明しました」と総合繊維メーカーのセーレン(福井市)研究開発センター・高橋潤理学博士はあるインタビューで語っている。
【細胞の老化を抑制する働きも】
カイコを守る繭の力は古来、着目されていた。中国では糖尿病などの生活習慣病対策に繭を煎じて飲む治療法がある。これは湯に溶け出したセリシンを摂取しているのだ。
セリシンは胃や腸で分解されにくく、腸まで確実に届いて腸内環境を改善し、ミネラルの吸収を促進したり便秘などを改善したりする働きがあるとされる。
前出のセーレンの研究によりセリシンの抗酸化作用も注目されるようになった。抗酸化作用により細胞の老化を抑制し、大腸がんや皮膚がんを予防する働きがあることも判明している。
セリシンの応用研究を進めた結果、セーレンでは独自のピュアセリシンを開発した。ピュアセリシンとは、大きさにバラつきのあるセリシンから肌への浸透効果が高い大きさの粒子のみを精製したものである。
ピュアセリシンはアミノ酸組成において、人間の肌にもともと存在するNMFという天然保湿成分に近い組成となっている。このため、肌の潤いや老化抑制などの効果が期待される。同社では、開発したピュアセリシンを天然保湿成分として敏感肌用や肌の老化防止用のスキンケア用品に配合し、洗顔料や化粧水、保湿ジェル、養毛料などの製品を「コモエース」というブランドで展開している。
次回の後編では、スキンケアなどに疎い初老読者にも分かるように、この絹由来のピュアセリシン製品をどのように使うといいのか、また医療分野での活用法などを聞く。