【取材の裏側 現場ノート】阪神・藤川球児新監督(44)の「談話が面白くない」という声をSNSなどのネット空間などで目にする機会が増えている。前任者の岡田オーナー付顧問が、何事もハッキリ言ってしまう御仁(ごじん)だったので余計に物足りなく感じてしまう向きも多いのだろう。
「〇〇選手の来季の起用法は?」。「〇〇選手がFA宣言をしましたが?」。「新外国人選手の獲得については?」。高知・安芸で行われていた秋季キャンプでも連日のようにさまざまな角度からの質問が飛んでいたが、「さあどうでしょう。担当コーチに聞いてください」。「球団に任せています。僕からコメントすることはありません」。「どうぞ、ご自由にお書きください」などなど、どこか〝他人行儀〟なコメントばかりが続く。
ざっくばらんな「そんなんオマエ」口調だった先代に対し、当代の虎指揮官は自分より年下の記者に対しても敬語口調。周囲に対してしっかりとした一線を引いていることが伝わってくる。
とはいえ現役時代の藤川監督は、筋金入りの「ハッキリ言うて族」だったと記憶している。選手という立場では言及しにくいチーム方針への提言や、若手への叱咤激励。球界全体のあり方などをはばかることなく発言する姿勢は、まさに虎のご意見番だった。だからこそ慎重な発言に終始している今の姿には違和感もある。
そんなタテジマ青年指揮官が、キャンプ地で何度となく口にしている言葉があった。「僕にはまだ『はかり』がありませんから」。「今は『はかり』をつくっている段階ですから」
測り、量り、謀り、秤――。さまざまな漢字を当てはめることができる3文字だが、藤川監督によるとチームの将としての判断基準、価値基準を今は自身の中で養っているとのことだ。「僕個人で動くわけではなく、チーム全体を把握した上での決断が必要になるわけですから。今は準備段階ですからね」
虎ブルペンを長年背負い続けてきた火の玉守護神も今はまだ「監督1年生」。冷静に自身の足元を見つめ、段階を踏みながら指揮官として必要なもの、不要なものを見極めている最中なのだろう。虎将としての場数を踏めば、先代を凌駕(りょうが)するような「火の玉ストレート発言」も増えてくるはずだ。
(阪神担当・雨宮弘昌)