オカルト評論家・山口敏太郎氏が都市伝説の妖怪、学校の怪談、心霊スポットに現れる妖怪化した幽霊など、現代人が目撃した怪異を記し、妖怪絵師・増田よしはる氏の挿絵とともに現代の“百鬼夜行絵巻”を作り上げている。第216回は「穴掘り男」だ。
東京都青梅市でまちおこしをやっていた当時、一緒に活動していた日本物怪(もののけ)観光の天野会長から聞いた話である。
夜中に「ショキ、ショキ」と音がする。この音を聞いた時に、僕ら昭和世代は伝承妖怪の「小豆とぎ」というイメージが湧いてしまう。だが、若い平成生まれ世代は現代妖怪の「穴掘り男」が穴を掘っているというふうにイメージするみたいだ。
われわれ昭和生まれでさえも、小豆をとぐ音はなかなかイメージに浮かばない。ましてや、平成生まれとなると、それはまた違った妖怪になってしまうというものであった。
近年でも小豆とぎの出現は報告されている。オーソドックスな川辺で小豆をといでいる姿が目撃されるパターンから、中には関東地方の高速道路の公衆トイレで小豆をといでいる変わり種の小豆とぎさえ報告されている。
誰もいないトイレにおいて、小豆をとぐ音が聞こえるという怪異であった。ちなみにこれは誰しも思うことだが、便器の水でといだ小豆は、とても食べられたものではなかったことであろう。
いずれにしろ、世代によって小豆とぎのイメージが穴掘り男に変わる変遷は興味深い。各世代が育った社会の変化によって、妖怪のビジュアルが変化するのだろうか。まるで、妖怪が言葉上で進化したみたいに見て取れる。こうやって妖怪は種類を増やしていくのであろうか。
そうなると、令和生まれの子供たちは「ショキ、ショキ」という音を聞いて、どんな妖怪を想像もしくは創造するのであろうか。