なぜ、悪夢の失神一本負けは生まれたのか。米総合格闘技イベント「UFC310」(7日=日本時間8日、ネバダ州ラスベガス)で、UFCデビュー戦となった前RIZINバンタム級王者の朝倉海(31)はUFCフライ級王者アレシャンドレ・パントージャ(34=ブラジル)に惨敗。日本格闘技界が注目した一戦に〝バカサバイバー〟こと青木真也(41)が鋭くメスを入れる。
打撃の展開となった1ラウンド(R)で、海は遠い距離から放たれる左フックを被弾。得意のヒザ蹴りは有効打とならず、中盤にはテークダウンを許した。2Rも王者ペース。組みつかれた海は後ろに回られ、最後は2R2分5秒、リアネイキッドチョークで絞め落とされた。
戦前から「厳しい」「勝つ材料が見えない」などと苦戦を予想していた青木は「俺の言った通りの結果だったじゃないか…。要は、完敗だ」と声をしゃがれさせる。その上で「1Rがあっての2Rだし、2Rがあっての3Rだから。この試合もそう。結局1Rに圧力をかけられて、そのラウンドは耐えたけど削られてバックにいかれた。削り負けだ」と断じた。
青木が言う「圧力」とは、選手の総合力から発揮されるものだという。「その圧力は、選手ならリングで相対した時に分かるんだ。特に差があると強く感じる。今回は朝倉もその圧力を感じて、厳しいって最初に思ったはずだ。相手は打撃もレスリングも寝技も全部強いから」とメガネを光らせる。
1Rにストライカーの海が有効打を放てず、パントージャの左フックでグラついた場面を示して「相手のテークダウンとグラウンドが強い圧力が、朝倉に打撃を出させなかった。朝倉はギャンブルに負けたんだ。一点突破しようとしたけど、圧力を突破できなかった」と分析した。
再三、必殺のヒザ蹴り(テンカオ)が空を切ったのもその証拠。「テンカオは展開を自分でつくって出すから当たるものであって。圧力をかけられた状態で最初から狙っても当たらないんだよ」とバッサリだ。
さらに「プロレスと同じだ。文脈のない大技は決まらないんだよ。『目に見えないところで俺たちは勝負してるんだ』って高木三四郎も言ってただろ?」と分かりにくく例え、難しい話をなおさらややこしくした。
それはそれとして、この1Rを踏まえての決着だったと力説する。「ハメられた感じだ。1Rで完全に削られてペースを握られただろ? そこから一気に盛り返そうとして大振りになったんだ。でも相手にすれば、だからこそ組みやすくなった。そして朝倉からしたら、あそこまで組まれたら厳しいよね。(脚を)4の字ロックに組まれてツイスト(体をねじる力)も使われていたから」
さらに「時間が進めば進むほど不利になる。早いラウンドで仕留めるしか活路はない」と予想していた青木は「本人も早く決めないと勝機がないっていうのは分かっていたんだと思う。だからあの展開になったっていうのもあるはず」と勝負を急いだ心境を察する。
一方で「今回はもう一回丁寧につくり直したかった。ジャブを突きながら」。一気の逆転狙いではなく、ポイントを取り返す策もあったという。そして「この完敗はチームの負けだ。つまり黒幕は(パントージャのチームメート)堀口恭司だ!」と決めつけた。
存分にメスを振るった青木は「な? 俺に格闘技を見る目も指導力もあるのは分かるだろ?」と小鼻を膨らませる。だが最後は「でも肝心の人徳が俺にはないんだよ…」とかける言葉もないほど悲しい中年の現実を語り出したので、そっと取材を終わらせてもらった。