韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の「非常戒厳」を巡り、警察は11日、大統領府の家宅捜索に着手した。内乱容疑で捜査が進む中、同容疑で逮捕された金龍顕(キム・ヨンヒョン)前国防相が、逮捕直前に自殺を図るなど騒動は拡大の一途。そして、ついに北朝鮮の報道機関もこの日初めて騒動を伝えた。〝反尹〟の北朝鮮がこれまでスルーしてきたのはなぜかというと――。
3日に宣言され、わずか6時間で撤回された「非常戒厳」によって、尹氏の旗色は悪くなるばかりだ。
法務省はすでに尹氏の出国を禁止。11日には警察が家宅捜索に着手した。令状に記された捜索対象者は「被疑者・尹錫悦」、場所は「大統領執務室」などだった。捜査員は大統領府に進入できず、令状の執行期限は「日没」のため、この日は案内室にいるだけとなった。
韓国紙ハンギョレによると、過去の朴槿恵大統領府の捜索事例から実効性のある捜索は難しい見通し。だが、尹氏の立件は不可避で、尹氏の拘束令状執行が先に行われる可能性が大きいという。
さらに、警察は11日未明、警察庁の趙志浩(チョ・ジホ)長官、ソウル警察庁の金峰埴(キム・ボンシク)長官を内乱容疑で拘束。2人は国会に警察官を投入し、非常戒厳の解除要求決議を可決しようとする野党議員の進入を阻んだ疑いが持たれている。
検察も10日深夜、同容疑で金龍顕前国防相を逮捕した。尹氏に非常戒厳を提案したといわれる。逮捕直前に拘置所の個室トイレで自殺を図ろうとしたが、気づいた職員がドアを開けると、諦めて出てきたという。
一方、最大野党「共に民主党」は12日にも尹氏に対する2回目の弾劾訴追案を国会に提出する見込み。14日の採決を目指す。訴追案は国会(定数300)の3分の2以上の賛成で可決される。野党や無所属議員が192議席を持っており、可決には108議席を持つ与党議員の少なくとも8人が賛成に回る必要がある。前回、与党はボイコットしたが、今回はすでに数人が賛成に投じるとみられ、可決の可能性が出てきている。
そしてこれまで一連の騒動をスルーしてきた北朝鮮だが、11日に朝鮮中央テレビ、朝鮮中央通信、国内向けの労働新聞が報じだした。
朝鮮中央テレビは「深刻な統治の危機に陥った尹大統領が不義に非常戒厳を宣言し、独裁の銃剣を国民に躊躇なく突きつける衝撃的な事件が起こった。100万人以上の群衆が尹大統領の弾劾を要求する抗議行動を展開した」と伝えれば、朝鮮中央通信も「国際社会が尹大統領の政治生命が早期に終わる可能性があると予測した」と報じた。
韓国事情通は「北朝鮮メディアは、親日・反北の尹氏に対しては一貫してバッシングを続けてきましたが、非常戒厳後に韓国バッシングを止めていました。行く末を注視していたのでしょう」と指摘する。実は、2017年に朴槿恵大統領(当時)に退陣を求める市民の「ろうそく集会」を報じた際に、国民に対して逆効果が生じてしまったことがあるという。
「先進都市の整った高層ビル群が映り、自国(北朝鮮)と対比されてしまったのです。また、大統領にモノを申せる韓国の市民社会もあらわにしてしまった。今回は北朝鮮が尹政権の混乱をヘタにあおるバッシング報道をしたり、混乱に乗じて何かすると、それこそ非常戒厳宣言の根拠になってしまうため、静観するしかなかった。いよいよ尹氏が身柄拘束、弾劾濃厚となり、何もできなくなったため報じ出したのでしょう。次期大統領候補は『共に民主党』の李在明代表で親北政権になることは確実です」(同)
確かに、朝鮮中央テレビのニュースでは、尹氏の退陣を求める大規模集会をモノクロに近い静止画で、人々を強調して写しただけ。ビル群を極力入り込まない構図だった。韓国の混乱は国外への影響も大きそうだ。