ソフトバンクから国内FA権を行使した甲斐拓也捕手(32)が巨人に移籍すると17日に正式発表された。宣言残留を認めるホークスとの激しい争奪戦の末、5年以上15億円超の大型契約で決着。移籍決断の決め手は何だったのか。甲斐が幼少期に捕手を志すきっかけとなった憧れの人・阿部慎之助監督(45)の殺し文句、心にしみた小久保裕紀監督(53)から贈られた言葉とは――。
決意のFA宣言から1か月以上、ようやく決心した。その熟考期間の長さが、悩みの深さを物語っていた。
「僕の今があるのは、ホークスの仲間のおかげ。大分出身で地元・九州の球団でプレーする喜び、幸せを感じていた。もちろん、家族の生活のこともあった。野球選手としてもう一つ上のレベルにいくための挑戦を望む中で、そんな大好きなチームを離れる選択がなかなかできなかったというのが正直なところです」
今月上旬に行われた巨人との直接交渉。福岡まで足を運んだ阿部監督のラブコールはすさまじかった。
「阿部さんから『強いチームには〝グラウンドの監督〟がいる。司令塔になってくれ』と言っていただいた。僕にとって阿部さんは特別な方。小さい頃に大分で野球中継と言えば巨人戦。阿部さんを見て捕手になった。巨人の監督になられた阿部さんにありがたい言葉をかけてもらい、純粋にうれしかった」。
同じ捕手でなければ理解できない苦悩に寄り添う言葉がしみた。大分の野球少年の目に焼き付いた巨人の背番号10。直接の後継指名に腹は決まった。
「巨人は特別なチーム。ものすごい重圧の中でプレーすることになる。もうそこは重々理解している。その上での決断です」。初めてのセ・リーグ、勝利を追求する名門・巨人という新たな環境が、選手としての可能性、幅を広げると確信している。
真っ先に移籍の報告をしたのは、王貞治球団会長(84)と小久保監督だった。ともに巨人の偉大なOB。王会長からは「選手として後悔のない選択をしたのなら、その選択を応援するよ」と力強く背中を押された。小久保監督はホークスから無償トレードで移籍して名門の4番を張り、主将も務めた。鷹の将の思いやりある言葉が心にしみた。
「監督に『すいません。移籍することになりました』と言ったら、すぐに『謝るな!』と返されました。そして『育成からはい上がって得た権利なんだから、堂々と胸を張って行きなさい』と声をかけてもらいました」
現役生活を終えた後の人生を見据えての選択でもある。「何歳になっても学びが大事。今年1年、小久保監督の采配を見ていて、セ・リーグの野球を知っているからこうなるのかと思うことが何度もあって、すごく学ばせてもらった。自分の中で答えの出ていないものや、まだまだ分からないことが多い。これからも常に学びの精神を大事にして、選手として成長したい」。
確かな地位を築いたホークスを飛び出し、ゼロからの再出発となる。育成入団から数々の壁を突き破ってきた男の立身出世はまだまだ続く。(金額は推定)