大相撲の秀ノ山部屋は初場所(来年1月12日初日、東京・両国国技館)で開設から2場所目を迎える。11月下旬には、東京都墨田区・東向島に部屋の建物が完成。新たな拠点で力士たちは連日、稽古に精進を重ねている。部屋の師匠で元大関琴奨菊の秀ノ山親方(40=本紙評論家)による連載「がぶりトーク」では、その本拠地の内部を独占公開。師匠のこだわりが詰まった〝城〟の全貌を紹介する。
【秀ノ山親方・がぶりトーク】読者のみなさん、こんにちは! 早いもので、私が10月19日に部屋を開設してから2か月あまりがたちます。11月の九州場所では故郷の福岡・柳川に宿舎を構え、地元のみなさまの支えのおかげで無事に乗り切ることができました。11月下旬には東京場所の拠点となる部屋の建物も完成し、力士たちとともに新たな生活をスタートさせたところです。
このほど完成した5階建ての部屋には、私のこだわりや支えてくださる方々の思いが随所に詰まっています。部屋の「顔」にあたる看板は、静岡の方に寄贈していただきました。1本のヒノキから切り出した板を静岡から能登まで運び、職人さんが輪島塗で仕上げた力作です。漆が何層にも塗られていて、朱赤で「秀ノ山部屋」の文字。神社仏閣でも使われる朱赤には、邪気を払う意味もあるそうです。
1階の稽古場には国技館と同じ「荒木田」の土を約50トン、運び入れました。上がり座敷を狭くしたぶん、土俵のスペースは広くしてある。すり足をする場所を広く確保するためです。奥の壁面には、姿見2枚と大型モニターを設置しました。力士たちは鏡やモニターのスロー映像で自分の動きを確認することによって、より多くのことに気付くことができるはずです。
こだわりと言えば、稽古場の羽目板やテッポウ柱、上がり座敷の板の間は全て、おかみ(祐未夫人)の故郷でもある長野の「あずみの松」を使いました。それから、稽古場の扉を開放すれば、部屋の隣の高齢者施設の方々に稽古を見てもらうこともできる。力士たちも、見られることで緊張感を持って稽古に臨めると思います。
2階にはちゃんこ場や風呂場、3階は若い衆の部屋と関取用の個室。4階にはトレーニングルームと、さまざまな分野の専門講師による講習会の開催などを想定してミーティングルームも設けてある。ちなみに、各階にはWiFiも入れてありますよ(笑い)。ただ、いくら設備を充実させても、それを活用できなければ意味がない。
トレーニングの器具も置いてあるだけでは使わないし、雑用ばかりに追われて一日が終わってしまうようでは本末転倒です。そこで、力士たちの力を伸ばすための環境づくり、仕組みづくりが大事になってくる。例えば「掃除」や「トレーニング」などで班分けをして、ローテーションで回していく。トレーニングに関しても「1種目、5分だけでもいいからやるんだよ」と言っています。
代わりに月に1回、筋力を測って数値化することで、おのずと自分のやるべきことが見えてくる。こちらから無理にやらせるのではなく、自分で考えて気付くことができる環境を整えることが、師匠としての自分の役割だと思っています。これは余談ですが「米だけは絶対においしく炊くんだよ」と言っている。食べることは、体づくりの基本。米がうまければ、自然と食べる量も増えますからね。
東京の拠点が完成し、私も腰を据えて弟子の育成に取り組むことができます。初場所も部屋一丸となって戦ってまいりますので、力士たちを応援していただけたら幸いです。それではまた!