【取材の裏側 現場ノート】新天地だからこそ、その「儀式」はさらなる意味を持つかもしれない。広島から海外FA権を行使し、オリックス移籍が決まった九里亜蓮投手(33)の入団会見が25日に大阪市内で行われた。
カープでは188センチ、97キロの立派な肉体に金髪がトレードマーク。だが、新天地の第一歩となる会見では、濃紺のネクタイに頭髪も明るさも控えめ。さぞ緊張していたのではないかと想像した。今風の外見とは裏腹に、本人は至って礼儀正しくナイスガイ。さらに野手に対しても気遣いをできる繊細さも持ち合わせている。
九里にはプロ入り後から欠かさずに先発時に行うルーティンがある。試合開始直前のベンチで、自分の後ろを守る内外野の野手全員のもとに足を運び、一人ひとりと丁寧にグータッチを交わすのだ。プレーボール直前はほとんどの先発投手が「自分の世界」に入りたがる。集中力を高める中で「お願いします」と声を掛けるのは、たいていの場合が投球を受けてもらう捕手だけ。しかし、九里はバックを守ってくれる野手に必ず〝仁義〟を切る。そこに先輩や後輩の区別もない。その真意を本人に聞くと、こんな答えが返ってきた。
「僕はバッタバッタと三振を取るピッチャーではない。ストライクゾーンで勝負し、打たせて、試合を進めていくタイプ。ゴロなりフライなりを捕ってくれる、後ろで守ってアウトにしてくれる野手の方々の存在があって、初めて自分の投球も成立すると思っている。自分の決意表明じゃないですけど『しっかりやるので、お願いします』というのも含めてです」
九里の言葉通り、今季の全アウトの内訳はゴロが約37%で、フライが約35%。およそ7割がバックの力を借りたもので、野手との共同作業でアウトを重ねることが真骨頂だ。この九里が欠かさなかった登板時の「儀式」は赤ヘルでは日常の光景だったが、新天地では「おっ」と驚くナインもいるかもしれない。
もちろん、登板日にそんな気配りを受けて嫌な気分になる野手はいないはずだ。野手目線から見ても〝守りがい〟がある投手として、すぐに信頼を勝ち取れるのではないかと思っている。
(広島担当・赤坂高志)