「投高打低」の傾向が顕著に表れた2024年シーズンは、3割打者がセパ合計でも3選手のみ。年々飛躍的なレベルアップを遂げるNPBの投手たちに、打者サイドが追いつけていない現状をあらわにしてしまった。本紙評論家の伊勢孝夫氏は、この状況を打開するカギをMLBではすでに主流となりつつある「すり足打法」にあると指摘。阪神・佐藤輝明内野手(25)らも今オフに試行中の打法は、来季の球界模様を塗り替えられるのか――。
【新IDアナライザー・伊勢孝夫】大谷の活躍のおかげで、俺もこの1年は早朝からメジャーの試合をたっぷりとテレビで見させてもらったよ。でもな、このへんは元打撃コーチとしての職業病やな。俺は気が付けば、打者の「前足」ばっかにずっと目がいってたんよ(笑い)。右打者なら左足、左打者なら右足のことな。
大谷だけでなくフリーマン、T・ヘルナンデスなんかもそうなんだけど、最近のメジャーの好打者はほとんど前足を上げないよな。すり足で打っとる。T・ヘルナンデスはほんの少しだけ前足を上げてるけど、スタンスの位置から前足がほとんど前に出ていない。ステップ幅がどんな時でも足元でしっかりキープできているんよ。大した再現性やな。
打撃のタイミングってのは「目」で見て「前足」で捉えるのが原則。MLBも平均球速が年々上昇しているし、変化球もツーシーム、スプリットみたいに球速が速いものが主流になってるやろ。「すり足打法」は前足を上げすぎると球を捉えきれなくなった時代に、適応した結果としての打ち方なんやろな。
で、ようやくここから日本球界の話になるんやけど、佐藤輝が今秋の安芸キャンプですり足打法を試していると聞いて、俺は素直に「ええ試みやな」と思ったね。彼は好不調の波が激しい選手やけど、不調時は投手が投げるボールに完全にタイミングをとれなくなっている。すり足打法を自分のものにして、再現性を高めることができれば、最大の課題だった確実性は大きく向上するんとちゃうか。こっちの打ち方のほうがタイミングははるかに合わせやすいわけやしな。
そのへんさえクリアできれば、佐藤輝は十分にメジャーでも活躍できると俺は思っているよ。まだまだ粗削りではあるけど、それだけの才能を秘めた素材や。彼だけでなく、すり足打法は今後のNPBでも主流になっていくような気がするな。投高打低のトレンドもそろそろ終わらせんとアカンわ(笑い)。
(本紙評論家)