北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記が脚本執筆し、現場で演技指導を手がけたプロパガンダ映画「72時間」が8日までに、国営メディア「朝鮮中央テレビ」で初放映された。昨年2月に劇場公開され、大ヒット。前後編で計約4時間という大作で、テレビでは今月2、3日に放映された。女性のシャワーシーンがあるなど衝撃的な内容になっている。
同映画は、1950年の朝鮮戦争で北朝鮮軍がわずか3日間でソウルを一時占領した経緯を詳細に描いている。韓国側が戦争を始め、北朝鮮が強力な反撃を繰り広げるという北朝鮮側の歴史観に基づいている。
何より、神格化されてきた故金日成国家主席(当時は首相)を正恩氏をほうふつとさせる外見の俳優が演じたり、若い男女がスキンシップしたり、女性のシャワーシーンが盛り込まれていたりするなど、キャッチーな描写もある。
北朝鮮事情通は「正恩氏が2021年の中国映画『1950 鋼の第7中隊』を見て感激し、『なぜわが国ではこんな映画が作れないのか』とプロパガンダ映画製作者にハッパを掛け、自身のポケットマネーから10億円以上を出して、2年かけて製作したといわれています。正恩氏自ら内容や現場での俳優たちの表情一つひとつを丁寧に指導したそうです」と語る。
しかし、米国議会から資金提供を受けているメディア「ラジオ・フリー・アジア(RFA)」が昨年報じたところによると、公開5か月後に正恩氏の意向で上映禁止になったという。理由は明らかにしていない。
RFAは禁止の理由について「北朝鮮は韓国の地名に言及するメディアを排除しているが、映画では『ソウル』など韓国の地名に言及しているため。あるいは映画内で『統一』という言葉を使用しているため。この言葉は、韓国を同じ民族の一部ではなく、敵対国と定義する北朝鮮の最近の対韓国政策と合わない」と分析した。
実際、正恩氏は2024年1月、最高人民会議で韓国との統一は不可能であり、憲法を改正して「第1の敵国」に定めるべきだと述べているのだ。さらに「北朝鮮がソウルを一時占領したのに、それ以上進軍せず、韓国全土を占領する機会を逃したという印象を与える」という意見もある。
前出事情通は「今回、テレビで放映したからには、上映禁止になった部分を編集し直したと考えられます。家族がそろう正月に放映したのは、娯楽性がある映画を通して、若い世代に米韓に対する敵対心を呼び起こし、ロシアとの強固な絆を強調しようという意図があると思われます」と指摘している。