ザ・ビートルズが1964年に米国に初上陸してから60周年を記念して8枚組BOX「ザ・ビートルズ:1964 U.S.アルバムズ・イン・MONO」が11月22日にユニバーサル・ジャパンから発売され、好セールスを記録している。全米を熱狂の渦に巻き込み、世界を制覇した「64年のビートルズ」の魅力を、同社のビートルズ担当ディレクター多田行徳氏に聞いた。
アップルは1964年の米国初上陸を描いたドキュメンタリー映画「ビートルズ’64」を制作し、ディズニー・プラスが11月29日から配信を開始した。これが今回のBOX発売の契機になった。そもそも米国モノ盤の魅力とは何なのか。
「まず英国盤と選曲が違う。キャピトル(米国の発売元)が勝手に選曲してエコーやリバーブをかけたり、違うバージョンも多い。ビートルズは英国オリジナル盤にシングルは入れない主義でしたが、米国盤はシングルをかなり入れて発売しています。ジャケットも独自のものが作られてメンバーは不満だったようですが、あの時代だから許されたこと。日本人と米国人にとってのファーストアルバムは『ミート・ザ・ビートルズ』を挙げる人が多い。オリジナルの英国デビュー盤『プリーズ・プリーズ・ミー』(63年3月)が米国や日本で発売されたのはずいぶん後になってからですしね」(多田氏)
63年12月にはシングル「抱きしめたい」、64年1月には米国デビュー盤「ミート・ザ・ビートルズ」が発売され、いずれも全米1位を記録した。2月9日には当時人気を誇った「エド・サリバン・ショー」に出演。米国の2324万世帯、7300万人が見たという。歴史が変わった瞬間だった。
「あの番組に出たことが一番大きい。じわじわ人気は上がってはいたが、米国の家庭に浸透していた人気番組で『抱きしめたい』を歌ったことは圧倒的なインパクトがあった。この曲が爆発的なヒットになったのもテレビに出たから。当時は米国でヒットしたものは世界に飛び火するので、米国の成功が世界での成功につながったわけです」
同16日にも同番組に再出演し、2244万5000世帯、7000万人が番組を視聴。同年は2度の全米ツアーを行い世界ツアーも敢行した。「抱きしめたい」は2月に全米1位を獲得。8週連続1位を走り、4月4日の全米チャートでは1位から5位を独占、100位以内に14曲を送り込む歴史的快挙を達成した。しかも64年だけで7枚のアルバム(「アーリー・ビートルズ」は64年以前の録音)をリリースしているから驚きだ。
「今では信じられないペースでアルバムを出している。(ドキュメントの)『ビートルズ物語』を除いても1年間で6枚。そんな例ないですよ。出しても出しても出すほどに売れる。プレス工場も大変だったと思います」
加えて今回のBOXは音的にも画期的だ。アップルはビートルズの音源を2009年に世界統一基準にしたが、今回は64年当時の音をそのまま再現しているという。
「64年当時のキャピトルのオリジナル・モノラルマスターテープを使っているので当時と同じ音が再現されます。当時はモノが主流の時代でしたので、今回はモノ盤で発売されました。現在は世界的にアナログがフォーマットの中心に回帰している。64年当時の米国の若者と同じ経験ができると思うので、ぜひ手に取ってほしい。今はストリーミング中心でフィジカルな『手にズシリと持った感覚』がない。持った時の重量感やアートワークとして飾る楽しみもあるので、そういうところから入っていただいてもいいかなと思います」
なぜ今、アナログなのか。そしてなぜ64年にビートルズは米国を熱狂させ世界全体を巻き込む「奇跡」を起こせたのか。
「米国人が実際に動いている4人を見て、聞けば聞くほど素晴らしい曲が出てきて人気は爆発した。ビジュアル面も加え、どれが欠けても成立しなかった。当時、スーツを着てお辞儀をするというスタイルも受けたと思います。でもやはり楽曲の良さ。10曲のヒットを生み出すどころか何十曲、何百曲のヒットを生み出すのはとんでもないことですよね。60年たっても若い人にも浸透していることを考えれば、やはりすごいグループです。反動というかアナログは1回終わった文化だけどやっぱりいいね、と回帰する流れが今はある。本作はジャケットの重量感もある。単体でも買えますし、とにかく楽曲がいいので改めてそのすごさを感じてもらえればと思います」
全米そして世界を熱狂の渦に巻き込んだ若き日のビートルズの「奇跡」を、このBOXで追体験してみてはどうだろうか。
「ザ・ビートルズ:1964U.S.アルバムズ・イン・MONO」
①『ミート・ザ・ビートルズ』(64年1月、11週1位獲得)
②『ザ・ビートルズ・セカンド・アルバム』(64年4月、5週1位獲得)
③『ハード・デイズ・ナイト』(オリジナル・モーション・ピクチャー・サウ ンドトラック=ユナイテッド・アーティスツ、64年6月、14週1位獲得)
④『サムシング・ニュー』(64年7月、9週2位獲得)
⑤『ザ・ビートルズ・ストーリー(ビートルズ物語)』(2LP)(64年 11月、最高位7位)=ボックスのみに収録
⑥『ビートルズ65』(64年12月、9週1位獲得)
⑦『アーリー・ビートルズ』(65年3月、最高位43位)
*定価5万2800円(税込み)。単体販売あり。