鬼教官らしく自らに、後輩に、猛ハッパをかけた。ソフトバンクの今宮健太内野手(33)が12日、福岡県宮若市で自主トレを公開。「大寒波」と表現した寒空の下、約6時間みっちりと鍛え上げた。
プロ16年目を迎えるベテランの表情と動きからは自信がうかがえた。昨季は遊撃手としてパ・リーグ新記録となる1575試合に出場を伸ばした。巨人・坂本の日本記録「2046試合」までは、あと471。内野の要を長年務め、その激務を知るがゆえに「坂本超え」を期待する声は多いが、偉大な数字への敬意は人一倍だ。
「(現役としてプレーできる)残りを考えた時に、片手で終わるんじゃないかという野球生活」。冷静に自らの現在地と取り巻く状況を思い浮かべ、激しいチーム内競争、世代交代の波に打ち勝つ覚悟を「謙虚にいきたい」という言葉に込めた。
今年から故障予防や疲労回復、弱点の明確化を計るべく心拍数などを測定する最新機器を導入。打率3割、出塁率3割5分を目標に掲げ「打てなければ試合に出られない」と、練習量にこだわり己の打撃を愚直に磨いている。自分に厳しく、他者にも厳しく――。私語なく、聞かれれば伝えるのスタイルで濃密な時間がこの日も過ぎていった。
慕って集まった仲間たちの鋭い眼光が、刺激になっている。塾生の中には昨秋の「プレミア12」日本代表ながら所属チームの楽天で超大型ルーキー・宗山との遊撃手争いが待つ苦労人・村林一輝内野手(27)、巨人にFA移籍した甲斐の後釜を狙う後輩の海野隆司捕手(27)らがいる。「今年が勝負」と意気込む面々から伝わる緊張感が、チーム今宮の練習の質を高めているのは言うまでもない。
必然と鬼教官の言動にも拍車がかかる。とりわけ、悲壮感いっぱいに「今宮塾」の門を叩いた海野に対するゲキは印象的だった。
「大チャンスだけど、それをもしつかみきれないとなった時、どうなるか。どんどんチャンスはなくなる。海野に限った話ではないけど、そういう世界」
甲斐が抜けたホークスにあって、海野は第1捕手の筆頭候補。その立ち位置にふさわしい結果を積み重ねられなければ、信頼と期待値はみるみる低下し、野球人生は尻すぼみとなる。
「(ここに集まった選手は)僕の技術どうこうを盗みにきたわけじゃない」。人生がかかった局面を制すには、チームの信頼を勝ち取ることが必須。そのために必要なものは何か。見込んだ人間にしか伝えることのない助言を日々送り続けている。
牧原大、周東、川瀬など巣立った出世組は実に多い。今年もまた己に勝ち、競争に勝つ。