【取材の裏側 現場ノート】どんな思いで羽を休めているだろうか。ソフトバンクのリバン・モイネロ投手(29)は昨年11月に開催された国際大会「プレミア12」にキューバ代表のエースとして参加。体調不良を抱えながらも最後までチームに帯同し、強行出場を続けた。
台湾での1次リーグ・日本戦では、登板回避が濃厚とみられていた中で志願のリリーフ登板。大会前から胃腸炎のような症状に苦しめられた左腕は体重が激減し、繊細な感覚が鈍ったことで3回5四死球、2失点と崩れた。本来、制球を乱して自滅するタイプではないだけに、ファンの間ではモイネロの起用を強行したキューバ代表に多くの批判が集まった。
1点差で敗れた日本戦の翌日、モイネロは首脳陣が下した選択に胸を張り、ロングリリーフを買って出た真意を教えてくれた。「どうしても日本に勝ちたかったんだ。勝つチャンスがあったから、僕は投げたし、投げたかった。国民が勝利を待っているから」。ポケットマネーで代表チームの備品をそろえる男気ある左腕らしい言葉だった。
国を背負うことに「差」を強調する必要はないが、とりわけ「キューバの今」は悲観的だ。政治的問題で年を追うごとに経済危機は悪化し、インフラは老朽化。未来を描けない若年層の「亡命」が絶えず、国力の低下に歯止めがかからない状況が続いている。
現地の球界関係者は「週に何度も停電が起きている」とひっ迫した市民生活を明かした上で「国内リーグも開幕が春にずれ込み、短縮化の傾向。暗い現実ばかり」と社会不安の拡大を懸念。そんな苦境だからこそ、国技の野球で「世界一の日本」を倒す意義は大きかった。失望する母国を勇気づけたい――。「国民が勝利を待っている」という言葉に込められた思いは切実だった。
モイネロは昨季ソフトバンクで先発に転向し、ローテーションの軸として11勝をマーク。いきなり163イニングを投げ、防御率1・88で最優秀防御率のタイトルを獲得した。勤勉で知られる左腕は入団以来、毎オフ抜かりない準備をして来日する。
例年1月はキューバ国内リーグで、地元球団の一員としてマウンドに立ってきた。「(普段は見ることができない)キューバの人たちに自分が投げているところを見せたい」。周囲が故障やオーバーワークを危惧しているのを承知の上で、同胞のために腕を振る貴重な機会と心得ていた。
キューバの英雄がいろいろなものを背負って、また日本に戻ってくる。身を粉にして腕を振るモイネロの雄姿を、今年も広く届けたい。(ソフトバンク担当・福田孝洋)