「ミスタータイガース」こと掛布雅之氏(69)が2025年の野球殿堂入りを果たした。阪神一筋で3度の本塁打王に輝き、現在は評論家活動を続けている。かつて虎党を熱狂させた主砲が飲食店で残していた〝豪快伝説〟とは――。
お祝い事だというのに恐縮だが、このたび野球殿堂入りを果たしたミスタータイガース・掛布雅之氏の〝豪快エピソード〟を暴露させてもらう。
かつて関西に実在したスポーツバーでの出来事。オーナーは大の阪神ファンで1985年のリーグ優勝、日本一の時代にはまだ学生だったという熱狂的な虎党だ。それは社会人になっても変わらず、独立開業した飲食店には思い入れのある選手が実使用したグッズなどが所狭しと並べられてあった。
その店には新聞を見開いたくらいの大きさ、A2サイズほどの巨大な白黒写真の立派なパネルが存在した。写真の中心には若かりし日の掛布さんがドンと写っていた。タテジマに身を包んだ背番号31はりりしく、鍛え上げられた太もも、ふくらはぎ、前腕から全盛期の力強さが存分に表現されていた。
その店のオーナーは「いつかこの店に掛布さんがご来店されたら、このパネルにサインをいただきたいなと思っているんです。お店の宝物、いや、家宝として店内にドーンとお披露目することが夢なんです」と語っていた。同店は野球、マスコミ関係者も集う人気店だったとあり、いつか実現するんだろうなとひそかに期待していた。
それからしばらくした頃だ。くだんのスポーツバーを訪れると、オーナーは悲しそうな表情で教えてくれた。
「掛布さんが実際にご来店され、パネルにサインをいただいたんです。少々、お酒を召されていたようでしたが、こんなチャンスはないとお願いしてしまいました。『喜んで書きましょう』と快く対応していただいたんですが、そのサインが〝残念な仕上がり〟で…。改めて別の機会にお願いすればよかったかなと、後悔してるんです」とのことだった。
オーマイガー。そのサインを実際に目撃したのだが、どう見ても笑ってしまうぐらい、ベストの状態とはほど遠い。掛布さんのサインは甲子園で販売されていたサインボールや、下敷きなどで少年時代から何度も見ているから分かる。
オーナーは「それでも、紛れもないホンモノ。大切に保管しておきます」と気丈に話していたが、慰めるのも微妙な空気で言葉に困った。
しかし、だ。あの掛布さんの直筆サイン入りパネルは世界で唯一のシロモノだ。ど真ん中に穴の開いていない5円玉が高値で取引されているように、殿堂入りを果たされ、ミスタータイガースの〝失敗レアサインパネル〟にさらなる箔がついたわけだ。
令和の現代とは違い、昭和のスーパースターは豪快だ。85年の阪神で全試合4番を務め、チームを日本一に導いた虎の中の虎なんだから何でもありっちゃありだろう。
レジェンドが羽目を外して生まれた「お宝グッズ」。ここは「何でも鑑定団」に価値を査定してもらってみてはとも思うのだが…。掛布さんに相談したらどんな答えが返ってくるだろう。「非常に難しいですねぇ」とでも言うのか言わないのか。言い訳がましいが、筆者の少年時代の憧れは掛布選手です!