2021年東京五輪種目別床で銅メダルを獲得した村上茉愛さん(28)は、指導者として新たな夢を追いかけている。24年11月に史上最年少で女子代表の強化本部長に就任し、28年ロサンゼルス五輪での「団体メダル」を目標に掲げた。銅メダルだった1964年東京五輪以来、半世紀以上団体の表彰台から遠ざかっているが、村上さんは世界の舞台で得た経験値を惜しみなく伝授する構え。今回の単独インタビューで、カギとなる選手など気になるテーマについて語り尽くした。
――現役時代は団体での五輪メダルに惜しくも届かなかった
村上さん(以下、村上) 団体でメダルを欲しいと強く思ったのが、2016年リオ五輪の団体で4位だった時かな。「みんなでメダル取ろうね、行けるよ」と話していたけど、もっと強い思いを持って練習ができていたら、メダルを取れたんだろうなと思っている。「自分たちってここまで行けるんだ」という現実を感じられたのと同時に「やっぱりメダル取れたよね」って。本気で目指していたけど、本気度が足りなかった悔しさがあった。東京五輪では個人でメダルを取れたうれしさを知っているので、団体でメダルを取ることの達成感はすごいだろうなと思っている。それをみんなには実現してほしいと思っています。
――強化本部長になって約2か月が経過した
村上 体操はもうできないけど、気持ちは現役の選手と同じぐらい自分もメダル取りに行くんだという思いでやっている。もちろん、結果を残すために私も学ばないといけないが、4年、8年の長いスパンでお互いに成長していきたい。まずは4年後どうなっているかが楽しみ。正直メダルはまだ難しいと思うけど、目指す上で過程も大事だと思う。そのためにどう動いたらいいのかを教えたいと思っていて。今はまだ深い話ができていないけど、メダルはたまたま狙うんじゃなくて、みんなで狙いに行く。それが日本としての目標ということは、合宿時の最初と最後に言うようにしているので、そこが伝わってくれたらいいなと思っています。
――パリ五輪の団体は8位だった
村上 予選は急きょ4人になっても各選手がミスなく演技をしたのはすばらしいことだし、ケガなく予選、決勝をやり切ったのは大きな成果。ただ、チーム力というよりも、競技力が足りていない点がリアルな課題だと思う。チームで団結するのも大事だし、もちろんDスコア(演技価値点)も高くないと戦えない。美しさとミスのない演技だけでは限界があることは全員がわかってくれている。何年かかけて技術力をどんどんアップさせて、最後の最後、五輪の決勝の日に自分の実力を発揮できる選手たちをそろえたチームをつくれるようにしたいです。
――メダルに向けてカギとなる選手は
村上 岸里奈選手(17=戸田市SC)はパリ五輪でもやっぱり一番エースだったと思うし、これから伸びていく選手だと思っている。パリ五輪の種目別でも、たぶんもっといい演技ができたと思うし、本人にも悔しさがあると思うが、個人総合でも非常に点数が取れる選手。いろんなところでいろんなものを狙えるので、頑張ってほしいですね。
――パリ五輪代表を辞退した全日本女王・宮田笙子(20=順大)の復活にも期待している
村上 ここ何年かは日本でトップになっているし、世界選手権でも平均台で(銅)メダルを取ったり、個人総合でも決勝に残ったり、結果を残している。団体でもポイントゲッターだったと思うので、そういった面でも必要な選手だと思う。自分の失敗を反省して再び五輪を目指したいと思っているのであれば、すごくいい方向に進むと思うが、私から代表に戻ってと強要するよりは、自分がどうしたいかが一番だと思いますね。
(インタビュー・中西崇太)
☆むらかみ・まい 1996年8月5日生まれ。神奈川県生まれ、東京・小平市出身。4歳から体操を始めると、小学6年で床運動の大技(H難度)・シリバス(後方抱え込み2回宙返り2回ひねり)を成功させる。2016年リオ五輪では団体で4位入賞に貢献。21年東京五輪は個人総合で5位入賞、種目別床では銅メダルを獲得した。世界選手権では種目別床で2度金メダルに輝いた。21年秋に引退後は指導者に転身。24年11月には史上最年少で、体操女子代表の強化本部長に選出された。23年2月に体操男子日本代表のトレーナーを務める森田敦士さんとの結婚を発表した。