1月20日にドナルド・トランプ氏は、米国大統領に就任して以降、グリーンランド購入、パナマ運河奪還の意図を表明し、メキシコ、カナダに25%、中国に10%の関税をかけた(メキシコ、カナダへの関税発動は一時停止)。
国際社会のゲームのルールが急激に変化している。ひとことで言うと大国が露骨にエゴを発揮する新帝国主義の時代が到来した。
この状況を石破茂首相はよくわかっている。1月24日に通常国会が召集され、石破首相が衆参両院で初めての施政方針演説を行った。野党もマスメディアもこの演説には新味がないとか具体策がないと批判している。野党の仕事は政権を批判することだから仕方ないとしても、石破首相を批判する記者たちが施政方針演説をきちんと読んでいるとは思えない。
石破首相の外交戦略はアメリカ追従の価値観外交から現実主義(リアリズム)にシフトしつつある。それが顕著に認められるのが対中国外交だ。演説で石破首相はこう述べた。
<中国との関係では、懸案や意見の相違につき、主張すべきことは主張する、その上で、協力できる分野では協力していく、そうした現実的な外交を行ってまいります。価値を共有する同盟国・同志国との確固たる連携を大前提とした上で、中国の安定的発展が地域全体の利益となるよう、習近平主席とも確認した、「戦略的互恵関係」の包括的推進、「建設的かつ安定的な関係」の構築という大きな方向性に基づき、今後も首脳間を含むあらゆるレベルで中国との意思疎通を図ってまいります>
これは民主主義や人権などの価値観によって中国を包囲するという価値観外交とは明らかに異なるアプローチだ。従来の外交との整合性をつける上でのレトリック(修辞)として<価値を共有する同盟国・同志国との確固たる連携を大前提とした上で>という留保をつけているが、趣旨は<習近平主席とも確認した、「戦略的互恵関係」の包括的推進、「建設的かつ安定的な関係」の構築という大きな方向性>だ。
アメリカとの深刻な軋轢を起こさないという閾値内で、日本は中国との政治と経済の両面において共存共栄を図っていくということだ。この方針を明示したことで、中国との経済関係が日本にとっての生命線と考えている財界の共感を石破首相は得た。
石破首相の外交センスは冴えている。近未来に石破首相が訪中し、日中の本格的な戦略的提携に向けた話し合いを習近平国家主席と行うことになると思う。