大相撲初場所(来年1月11日初日、東京・両国国技館)で、安青錦(21=安治川)が大関としての初陣に臨む。「看板力士」と呼ばれる横綱や大関の立場になると、関脇以下の番付から何が変わるのか。元大関琴奨菊の秀ノ山親方(41=本紙評論家)による連載「がぶりトーク」では、大関の待遇や責任を徹底解説。大役を担う新大関に向けてエールを送った。
【秀ノ山親方・がぶりトーク】読者のみなさん、こんにちは! 11月の九州場所では安青錦が初優勝を果たし、大関に昇進しました。横綱や大関は「看板力士」と呼ばれるように、大相撲を背負って立つ地位。関脇以下の力士とは立場が大きく変わります。その主な一つが、正式に昇進が決まると伝達式が行われること。今回の安青錦も部屋に使者を迎えて口上を述べていましたよね。
大関になった直後から、待遇もガラリと変わる。月給(役力士の月給は横綱が300万円、大関は250万円。関脇・小結は180万円)が増えるのをはじめ、移動の座席は飛行機ならファーストクラス、新幹線ならグリーン車になります。東京開催の本場所では、国技館の地下駐車場に車で乗り入れることもできるようになる。日本相撲協会の各種行事には、横綱とともに力士を代表して出席します。それ以外にも違いはたくさんある。
関脇以下の稽古は、基本的に勝ち抜き戦形式の申し合い。これが大関になると、稽古相手を指名して番数も自由に決められる。自分のペースでやれるようになるんですね。付け人も増えて、私が大関になった時には2人から4人になった。身の回りのことを手伝ってもらうだけでなく、上に立つ側は付け人に相撲や礼儀作法などを教えて育てていく役目もあります。
実際に大関になってみると、さまざまな優遇をありがたく感じる一方で「看板力士として、しっかりやらなければ」という自覚や責任感が芽生えてくる。その中には、本場所で結果を出さなければならないというプレッシャーも含まれます。関脇までは勝つことに楽しさを感じていたけれど、大関以上は勝って当たり前の立場。三賞もなくなって、目指すものが優勝しかなくなります。
懸賞の本数は増えるけれど、そのぶん対戦相手も目の色を変えて立ち向かってくる。最低でも10勝以上の勝ち星が求められるし、成績不振なら批判も甘んじて受けなければなりません。大関として受けられる好待遇は、果たすべき責任とセットになっているんですね。私も、常にいろんな重圧を背負いながら戦っていました。
それから、普段の生活も一変しました。テレビ番組やイベントなどへの出演のほか、夜は会食で出掛ける機会も一気に増える。肌感覚で言うと、忙しさは倍どころじゃありません。3倍、4倍ぐらいは多忙になるイメージ。大関になると、こうしたことにも慣れていかなければいけないんですね。ただ、どれほど忙しくても稽古やトレーニングだけは決しておろそかにはしませんでした。
安青錦も初めは戸惑うことがあるかもしれませんが、大関になった力士なら誰もが通る道。自分のペースを早くつかんで、さらに上の地位を目指して頑張ってもらいたいですね。それではまた!
(随時掲載)