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線路見れば一目瞭然? 日本の鉄道が「災害に弱い」残念な理由 1か所不通で“どうにもできなくなる”ギチギチ思想

乗りものニュース 2024年7月24日 7時12分

災害の激甚化で鉄道が不通になり、物流へ大きな支障が生じるケースが相次いでいます。海外では複数のルートから代替路を選択し、物流を止めない思想がありますが、日本は真逆とも言える状況。その思想は線路にも見て取れます。

幹線にお金をかける日本 代替路は…無いの!?

 日本では豪雨が来ると土砂災害が起き、線区が不通になり貨物列車が長期間運行できなくなるケースが、ここ10年間で6回も発生しています。平地が少ない日本の鉄道は、斜面を切り拓いて造られているので土砂災害が多いのは仕方がないのかもしれませんが、大量輸送機関である貨物列車が長期間運休してしまうのは経済活動へのダメージです。なぜ、このような事が繰り返されるのでしょうか。

 道路が不通になると、他の道路に迂回します。このように代わりのルートや能力に余裕があることを「冗長性がある」と言います。

 日本の鉄道は幹線が重点的に強化され、亜幹線(幹線とローカル線の中間的な路線)には投資が回らず、電化されていなかったり重い機関車が入れなかったりします。貨物列車を迂回させるには機関車を別に用意したり、重さや長さの制限から編成を縮めたりしなければなりません。線路はあっても迂回は困難で冗長性が無いのです。

 そして日本では、1本の路線をアクロバティックなほど目一杯に使います。そのため信号と信号の間(閉塞区間)も詰めて高額な信号装置も多数装備します。また、ドア1枚が故障しただけで全線麻痺するといったことも起きてしまうので、車両も設備も頑丈にし、メンテナンスにもお金と人手をかけて故障を減らしています。

 こうして信頼性を高めても、災害などで路線が不通になると全線麻痺に陥ります。高密度輸送ゆえに、トラックでの代走は台数が多く必要となり輸送が破綻します。信頼性を上げても、冗長性が無ければ破綻は繰り返されるのです。

物流を止めない思想の欧州

 国の大量輸送・ロジスティックスが止まれば戦争には勝てません。そのため戦乱が続いた欧州では、敵の攻撃に備え、外乱による不通はあるものだとして鉄道の冗長性を重視しているようです。

 たとえば複線区間ではどちらの線も両方向に走ることができ、どちらか片方が生き残れば運行を継続できます。たとえ信号設備が複雑・高価になっても、冗長性を確保すべしという思想が現れています。

 もう一つ、日本と欧州の発想の違いは、路線どうしが交わる「分岐点」にも顕著に表れています。

日本の鉄道の「分岐点」=後戻りできないただの「分かれ道」

 欧米・中国・ロシアなどの鉄道配線を見ると、鉄道路線が「Δ(デルタ)」型に分岐していることに気づきます。日本でも高速道路のジャンクションはΔ型です。路線を梯子状や網状に作りΔで結ぶと、路線の一部が不通になっても方向転換せずに迂回でき、冗長性が確保され、ロジスティックスを止めずに済みます。

 日本の鉄道では、複線は例外を除き左側通行のみですし、武蔵野線や大阪の貨物線などにΔ分岐はありますが、山陰本線の梅小路Δ分岐(京都)が撤去されたように、貨物列車が通らなくなるとすぐに線路を剥がし、「Y」字型の分岐にします。分岐器には税金もかかりますし、保守にもお金がかかるので、使わない短絡線はすぐに撤去するのでしょうが、冗長性を重視しているとは思えない状況です。

 また、インフラの捉え方も異なります。欧州では数百年間に渡りインフラを積み上げていく考えのため、将来に向けた拡張性や余裕を持たせて設計します。日本では災害が多いためか、木造住宅のように、その都度余裕の無いスペックで作り、壊れたり時代に合わなくなったりしたら建て替えるという思想的な違いもありそうです。

冗長性はメンテナンスの「効率化」につながる!

 欧米では冗長性を活かし、線路のメンテナンスは列車を別線に迂回させ日中に行います。一方、日本では終電から始発までの深夜作業となり、1回の作業時間が短く工期もコストも嵩みますし人員の確保も厳しくなります。

 さらに欧州では、主に河川や運河を活用する内陸水運と鉄道を接続し、冗長性を高めています。コンテナであれば積替時間が短く済むため、このようなことも可能になりました。欧州の河川・運河を運航する艀(はしけ)は日本の内航船並みに大きく、ドイツのcontargo社では艀・鉄道・トラックを組み合わせ、6か国間の輸送を柔軟に担っています。

 オランダのデルフト工科大学では、輸送時間がかかっても良いコンテナは艀で安く運び、急ぐコンテナは鉄道で運ぶなど、コスト・環境面で最適な輸送手段を選択する「シンクロモーダリティ」が研究されています。平時は最適なルートに振り分けて運び、輸送経路が1つダメになると即座に生き残った経路へ振り分けるわけです。

 これは、輸送の最適化と冗長性確保に加え、トラック輸送の増加を抑えるので、環境問題・人員不足問題の改善にも効果が期待されています。

「冗長性」がない国民の不幸

 こうして比較してみると、欧州は大量輸送機関である艀と鉄道の両方にコンテナを誘導することで、冗長性を高めるだけでなく、一人当たりの輸送生産性・港湾の競争力を高め、環境や人手不足の問題に対応しています。

 一方、日本は道路・トラック輸送に偏重しているため人手不足になり、大量輸送機関である内航海運や鉄道は貨物量を確保できないため改良投資ができず、固定費も回収しづらく運賃が高止まりし、国全体の輸送効率と国際競争力を引き下げている上に、災害にも弱いという構図に陥っているように見えます。強いはずのトラックも運賃ダンピングが激しく多重下請け構造に陥っていますので、運行事業者も国民も幸福にはなっていないようです。

 他方、高速道路は前出したΔ分岐のほか、軸重制限も全国統一となっていて冗長性がありますが、北陸の豪雪などに見られるように、広範囲の降雪などでの代替手段がありません。また、日本の鉄道コンテナは独自規格のためコンテナ船に載せることができません。世界規格のISOコンテナへの対応が冗長性確保の鍵となるでしょう。

 希望もあります。日本でも背高コンテナを除けばISOコンテナの鉄道輸送は可能です。日本列島は日本海と太平洋に挟まれ海港が豊富にあり、欧州に比べ運河や閘門の維持負担や河川の渇水・洪水のリスクもありません。日本海縦貫線(羽越・信越・旧北陸本線ほか)や上越線は電化されており、各地にあるコンテナ港と結べば冗長性を高められる可能性があります。

 輸送モード間の連携は輸送形態や契約・運賃・システムをはじめハードルが多々ありますが、欧州では国や鉄道会社を跨って実現しています。対して、国内輸送で完結し貨物鉄道が実質1社である日本の方が、ハードルは低いのです。

冗長性の確保に「誰がお金を出す」のか

 大量輸送インフラがいざという時に役立たないと、社会的価値は毀損されますし、経済活動に重大な影響を与えます。阪神淡路大震災で線路が崩壊した際、JR西日本は生き残った貨物線などを使い、いち早く運行を再開しました。鉄道の冗長性が有効なことは日本でも実証されているのですが、社会資本整備にまでは至っていません。

 普段は使わない備えである冗長性を「無駄」と捉えるのか、インフラの強靭性・柔軟性・社会的価値を高める「投資」と捉えるのか。これは行政の補助で鉄道や港湾の設備投資をする際にも考え方を見直す必要があるかもしれません。

 国土を支える大量輸送インフラの冗長性と輸送生産性の向上を、誰が旗振りをして誰がお金を出して進めていくのか。災害列島日本において、これが見えない事が最大のリスクだと思えます。

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