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「激しい急降下」で乗客死亡も 飛行機を襲う「晴れてるのに乱気流」世界で大問題! 乗客の“心構え”を聞いた

乗りものニュース 2024年7月13日 16時12分

シンガポール航空機が「晴天乱気流」に巻き込まれ、乗客が死亡する事故が発生。温暖化の影響により、こうした予測の難しい乱気流は増えるとされており、海外では大きな話題となっています。パイロットと乗客の心構えについて聞きました。

海外メディアが大騒ぎ「晴天乱気流」に見舞われる飛行機

 目視可能な雲がないのに発生する激しい乱気流――その名も「晴天乱気流」。気象レーダーでも感知できない上に、積乱雲や嵐を伴わないため、パイロットが目視して予測することができません。文字通り、青天の霹靂(へきれき)という状況で飛行機が巻き込まれてしまう現象が、いま世界中で問題となっています。

 例えば、直近では2024年5月21日、ロンドンからシンガポールに向かって飛んでいたシンガポール航空のボーイング777-300ER機がミャンマー上空で乱気流に巻き込まれ、3分間で1800mもの急降下。乗客が天井に頭をたたきつけられるなどして、死者1名に多数の負傷者を出しました。

 そこまで大きくはなくとも、飛行機に乗っていて、雲の中を通過しているわけでもないのに気体がガタガタと揺れた経験を持つ人もいるかもしれません。こうした晴天乱気流は温暖化の影響で増加傾向にあるといわれ、海外メディアは大騒ぎ。北大西洋上の激しい晴天乱気流は過去40年に5割増え、2050年にはさらに今の倍に増えるそうです。

 この衝撃的な試算を発表した乱気流の研究の第一人者、英レディング大学のポール・ウィリアムズ教授のもとには、シンガポール航空の事故の直後からインタビューの申し込みなどが殺到してします。1か月半近くたった7月でもスケジュールは埋まりっぱなしで、学生にメディア対応させるほどの多忙ぶりだと同教授は取材に語りました。

乱気流を避ける パイロットの頼みの綱とは?

 では、こうした激しい晴天乱気流に万が一入ってしまった場合、パイロットはどのように対処しているのでしょうか。

 飛行機を操縦するパイロットにとって晴天乱気流を避ける唯一の頼りの綱は、「操縦士報告」と呼ばれる、世界中の航空会社の飛行機から送られる気象情報です。つまり、自分が飛行を予定しているルートを少し前に通過した別のパイロットが「乱気流があった」などと報告した情報です。これを参考にして避けるべき場所などを決めます。

 ただ、これでも晴天乱気流を避けきれないのが恐ろしいところです。大手航空会社に計26年間勤務し、事故にあったシンガポール航空の機体とまったく同じボーイング777-300ER機も長年操縦してきたダグラス・ミッチェル氏に話を聞きました。

「パイロットの体感」でしかないからね

 ミッチェル氏によると、そもそも操縦士報告というのは、機内で最も揺れにくい飛行機の最前部に座るパイロットの体感で「弱」「並」「強」「激しい」などと評価するため、過小評価しがちだといいます。その上、「並」以下の乱気流は報告義務がないため、面倒くさがりなパイロットの場合はすべてを「並」ということにして通り過ぎることも。

 このためミッチェル氏は、すべての旅客機に揺れ方を正確に測定できる「3軸加速度センサー」と、自動で情報を共有する報告システムの導入が急務だと訴えます。

 同氏によると、不運にも激しい晴天乱気流に突っ込んでしまった際の対処の方法は、

(1)高度を上げる
(2)高度を下げる
(3)まったく違うルートに変更する
(4)速度を落とす

 の4つだといいます。高度を上げるのは、燃料の残量が少なくて機体が軽い場合にしか適用できず、逆に高度が低い位置での飛行は燃費が悪いため、目的地まで到達できるだけの燃料が必要です。

 また、高度の変更とルート変更は、別の飛行機がいて物理的に無理な場合も多々ある上に、何メートル高度やルートを変更すれば乱気流を避けられるのか分かりません。高度やルートを変更してみた結果、さらに激しい乱気流に突入してしまう危険性もあると同氏は指摘します。

 そこで、最も簡単で確実な方法は、速度を落とし、空気の「壁」に衝突する衝撃をできるだけ軽減させながら、乱気流から出るまで耐え忍んで飛ぶ方法です。

 大半の航空会社では、乱気流に入ってしまった場合も、オートパイロット(自動操縦)で飛ぶことが推奨されているそうです。乱気流に煽(あお)られながらの飛行の場合、オートパイロットの方が人間の判断よりも的確に機体のバランスを取れるということですが、あまりに激しい乱気流に巻き込まれて乱高下してしまった時には、オートパイロットが「計算不能」と音を上げてしまい、オフになってしまうことも。

 冒頭のシンガポール航空の事故でも、乱気流に突入した直後の21秒間は手動で操縦したことが、公開されているフライトレコーダーの記録で確認できますが、オートパイロットが対処できないほど激しい乱気流だったのではないかと同氏は推測します。

 それほどの激しい乱気流に巻き込まれてしまった場合、乗客はどのように身を守れるのでしょうか。

身を守るシートベルト「締め方にコツあり」

 直近でシンガポール航空の例が起こってしまったとはいえ、意外にも、晴天乱気流が原因とされる墜落事故はあまり多くありません。航空関係者の間では、1966年に富士山付近の上空で英国海外航空(現ブリティッシュ・エアウェイズ)の機体が空中分解して墜落した事故くらいだという見解が一般的です。

 そのうえ、シートベルトを締めていれば乱気流での負傷はしないともされています。ただ、ミッチェル氏は「シートベルトの締め方にコツがある」と言います。

 ゆるいズボンが下がってきてしまうのを防ぐためにベルトを締めるくらいの圧迫感で、シートベルトを締めるのが大切だそうです。

 長時間ベルトをきつく締めさせておくのが難しい幼児の場合は、ひとまず緩めにシートベルトをさせておき、頭上の棚の荷物や折り畳みテーブルの上の物がカタカタと音を立て始めた場合は、念のためにシートベルトをギュッと締めるのが良いということです。

 また、エコノミー症候群の予防のため、定期的に座席から立ち上がることが推奨されていますが、それもなるべく短時間にし、お手洗いに行く場合は、個室内の手すりにつかまりながら用を足すのが有効だそうです。そして、激しい揺れになった場合には、座席に戻ろうとはせず、そのまま個室内の手すりに両手でつかまりながら、その腕で頭と首を覆うのが効果的だといいます。

 人工知能を使った晴天乱気流の予測システムの開発や、大型機の垂直方向への揚力を高める技術の開発など、新規ビジネスへの競争も過熱しています。今後、開発が進み、こうした航空事故が過去のものになる日もそう遠くないかもしれません。ですが、当面の間は、着席時はシートベルトをきちんと締め、頭の片隅に晴天乱気流の危険性を入れて行動することが大切なようです。

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