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世界最速のプロペラ機「羽2枚重ね」なぜ? 実は理にかなっていたワケ 同じ発想はヘリコプターにも

乗りものニュース 2024年8月6日 18時12分

ロシア軍のツポレフTu-95爆撃機、同機はガスタービンの一種であるターボプロップエンジンでプロペラを駆動させ飛行する大型爆撃機です。しかし、よく見ると各エンジンにはプロペラが二重に取り付けられています。意味あるのでしょうか。

プロペラ機最速を叩き出した方法とは

 日本近海にもよく飛来し、スクランブル発進した航空自衛隊機に撮影されることもあるロシア軍のツポレフTu-95爆撃機。同機はプロペラ機ですが、最大速度は925km/hとジェット機に匹敵するほど速いです。なぜ、ここまで速度が出るのか。その理由のひとつにプロペラの形状があります。

 Tu-95はエンジンを4基搭載していますが、各軸には2組のプロペラを組み合わせています。このようなプロペラの方式は「二重反転プロペラ」と呼びます。2組のプロペラはそれぞれ左回転と右回転で、お互い逆方向で回転しています。お互いの力を打ち消しているのです。

 プロペラ機はピストンエンジンのレシプロ機、ガスタービンエンジンのターボプロップ機の種類を問わず「作用反作用の法則」で、回転するプロペラとは逆方向に余分なエネルギー(カウンタートルク)が発生しています。その余分なエネルギーはエンジンの出力を上げる度に大きくなります。

 例えば、エンジンがひとつの単発機の場合は水平飛行している際、プロペラが右回転の場合は、左方向に行こうとする力がかかります。ただ現在の単発機の場合は重量をわざと左右不均等にしているなどの措置をしているため、操縦時はわかりにくくなっています。また双発機や4発機の場合は、機体に対してまっすぐではなく、少し角度をつけてエンジンを取りつける方法のほか、エアバス のA400Mのように、左右のプロペラがそれぞれ逆方向に回転することで、真っすぐに進むような対策をしています。

 それら措置に頼らず機体を安定させ、エンジンが発生させるエネルギーを、無駄なく推力のみに変えようとして考え出されたのが二重反転プロペラです。同じ軸にプロペラが設けられ、さらに各々が逆方向に回ることで、互いの回転と反対方向に行こうという力を打ち消し合い、無駄なエネルギーが消費されるのを防いでいます。

  Tu-95はそのおかげで前出したような925km/hという異例の高速性を誇るのです。なお、このスピードはプロペラ機としては2024年現在、最速になります。

 実は二重反転プロペラの登場はかなり昔で、第二次世界大戦以前の1930年代になります。最初はレース用の水上飛行機に採用されました。大戦中は高速性が求められる戦闘機でも幾度となく採用が検討され、試作機だけでなく、少数ではありますが量産機でも搭載したものが登場しています。しかし大量生産に至った機体はありません。

 理由は、内部構造の複雑さによる整備効率の悪さやコストの高さ、そもそも重量がプロペラ一枚よりも増大してしまうというデメリットがあったからだと考えられます。

飛行機以外にヘリコプターでも

 ただ、二重反転プロペラにもメリットがあります。出力を効率よく使えるためプロペラの直径を小さくできることです。

 Tu-95に関しては、当時のソビエト連邦共産党中央委員会が要求した性能を満たす場合、ひとつの軸に1枚のプロペラだと直径が7mを超えてしまうという結果がでました。この大きさのプロペラでは、さすがの大型4発機でも邪魔です。
 
 さらに当時、ジェットエンジンはまだ燃費が悪く、大型戦略爆撃機に搭載するには許容できない範囲だったため、プロペラの直径を小さくできる二重反転プロペラが採用されることになりました。

 大戦後の旧ソ連では、大型機が飛行する際の安定性を確保するために、軍民問わず様々な機体で二重反転プロペラが採用されています。前出のTu-95以外では、同機をベースに開発された旅客機型Tu-114があるほか、An-22やAn-70といった輸送機でも二重反転プロペラが用いられています。

 戦後、二重反転プロペラを採用したケースはイギリスやアメリカでも見られます。たとえば、製造国イギリスを含め「世界で最も醜い機体」と呼ばれた空母搭載用の対潜哨戒機、フェアリー「ガネット」も二重反転プロペラを搭載しているほか、民間機だとレース機などで多用されており、1963年から2023年まで行われた「リノ・エアレース」では、民間に払い下げられたP-51「マスタング」戦闘機を、エアレース仕様に改造する際にスピードアップを図る目的で二重反転プロペラへと換装した機体も多々ありました。

 なお、飛行する際の力を打ち消し合う仕組みは、飛行機だけでなくヘリコプターにもあります。ヘリコプターは、メインローターと呼ばれる大型の回転翼で揚力と推力を生み出していますが、回転している以上、プロペラ機と同じく常に逆方向へと機体を回転させようとする力が働いています。そのため、それを打ち消すための逆向きに推力を働かせるローターがほとんどの機体で用意されています。

 通常はヘリの尾部についている「テールローター」が一般的ですが、二重反転ローター式という構造の機体では、メインローター部分に上下逆回転するローターがあり、これらが別方向に回ることで機体の姿勢を維持しています。こうすることでテールローターを不要にしています。

 ちなみに『ドラえもん』の「タケコプター」を現実で再現する場合、ドラえもんが逆方向に毎秒4.7回転して目を回してまうと、作家の柳田理科雄さんが書いた『空想科学読本』シリーズでは紹介されています。

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