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『ガンダム』はなぜ“空母”が少ない? MSばかり戦うなら「たくさん艦載すりゃいいじゃん」そうでもないワケ

乗りものニュース 2024年8月12日 18時12分

アニメ『機動戦士ガンダム』には、MSを搭載する「ホワイトベース」「ムサイ」などの宇宙艦艇が描かれます。しかしMSの戦闘が勝敗を決める世界観なのに、純粋なMS空母はほぼ登場せず、砲撃力の高い艦艇ばかりです。なぜでしょうか。

史実の航空戦艦は…

 人型機動兵器モビルスーツ(MS)が活躍する、アニメ『機動戦士ガンダム』。作中でMSの攻撃力は非常に高く、開戦当初にルウム戦役でシャアが「戦艦5隻を撃沈した」とされています。
 
 そうであるなら、宇宙艦艇には可能な限りのMSを搭載した方が、戦力が向上するようにも思えます。つまり「MS空母」ということです。

 しかし、設定によって「宇宙空母」と称される「ホワイトベース」は、諸説あるものの全長262m、重量3万2000tの大型艦ですが、MS搭載数は最大でも15機。射程72kmの88cm主砲塔や連装メガ粒子砲、多数のミサイルランチャーなどの重武装を搭載しており、空母というよりは「航空戦艦」のようです。実際、劇中で「新型戦艦」と呼ばれることもありますから、航空戦艦のような存在なのでしょう。

 史実において、戦艦の砲撃力と空母の航空機運用能力を兼ね備えた航空戦艦は、旧日本海軍の伊勢型航空戦艦のみです。伊勢型戦艦を改装して主砲塔を減らし、艦尾に艦載機格納庫とエレベーター、カタパルトを設置して、艦載機22機を射出できるようにしました。

 航空戦艦は1923(大正12)年、イギリス・ヴィッカース社の軍艦設計部長で金剛型巡洋戦艦を手掛けたサーストン技師が、基準排水量3万5000トン、40.6cm主砲3門、速力30ノット(約55.6km/h)のプランを提唱したのが始まりです。空母と戦艦を兼ねた万能軍艦案は、空母の始まりから存在したのです。

 しかし、実用化されなかったのは、空母としても戦艦としても中途半端だったから。実際、伊勢型航空戦艦は、戦艦としては最低限の砲撃力で、空母としては搭載機数が少なく、かつ着艦できない問題がありました。

『ガンダム』で空母より戦艦能力が重視されるワケ

 一方『ガンダム』の舞台となる宇宙世紀では、「ムサイ」や「チベ」、改装された「サラミス」などの巡洋艦クラスもMS搭載能力を持つ「航空巡洋艦」ですし、「ホワイトベース」や「グワジン」など主力艦クラスも砲撃力と艦載機運用能力を持つ「航空戦艦」です。

 空母と称されるのは、ジオン軍のドロス級と、地球連邦軍のトラファルガ級です。ドロス級は全長495mと作中最大の大型艦艇で、MSの搭載機数は182機。ただし、2連装メガ粒子砲8基装備と砲撃力もあるため宇宙要塞というべき艦艇で、ごく少数だけでした。

 トラファルガ級はマゼラン級戦艦の両側に、MS格納庫を備えたような艦形で、MSの搭載数は60機。こちらも主砲があり、ある程度の砲撃力がありましたが量産はされていないようで、本編への登場もありませんでした。

 連邦軍には、これ以外にコロンブス級宇宙輸送艦があり、こちらはMS50機を運搬可能(運用する場合は、より少数搭載)と「護衛空母」のようですが、後方での運用が多く、主力扱いではありません。

 つまり空母より航空戦艦や航空巡洋艦の方が有利となる理由があるのでしょう。これは「ミノフスキー粒子」の存在によるものと思われます。これを散布することで、レーダーによる遠距離兵器を無力化し、目視での戦闘を強いることができます。

 この結果、宇宙世紀での戦闘は、現代と比較しても非常に近距離となります。ルウム戦役での両軍艦艇の戦闘距離は2万8000mといわれていますし、MS搭載のセンサー有効半径は数千m程度です。つまり、数千mレベルの近距離で発生するMS戦闘を、宇宙艦艇が数万mから支援砲撃する戦闘場面になっているものと思われます。

 MSの持ち味は、「AMBAC」と呼ばれる手足を使った機動制御システムによる柔軟な運動性能と、近接してのビームサーベルやヒートホークによる白兵戦攻撃です。センサーが機能しない以上、相手機に優位なポジションを占められる三次元の運動性と、近接時に白兵戦武器で相手を殴れる性能が、ミノフスキー粒子下での戦闘には必要とされ、宇宙戦闘機よりもそこが優れているわけです。

ミノフスキー粒子の散布が間に合わないと…

 しかし、ミノフスキー粒子は散布しなければ薄まるものですし、濃度が薄ければレーダーが使えてしまいます。ミノフスキー粒子濃度が薄ければ、戦艦は数百kmの距離から、光速の3分の1ともいわれる弾速のメガ粒子砲を正確に射撃してくるでしょう。この場合、目標は一方的に狙撃されます。

 つまり、予期せぬ遭遇戦などで、ミノフスキー粒子散布が間に合っていない場合などには、主砲がなければ高性能・大出力のメガ粒子砲を撃ってくる宇宙艦艇に対抗できないわけです。ビーム攪乱幕などを使えば遠距離ビームの効果が弱まる世界ですが、数万m程度なら届くことは劇中描写でも明らかなため、MS戦闘を支援する場合にも主砲装備は必須なのでしょう。

 また、センサーが弱く戦況を把握しにくい上に、パイロットや機体性能の差が出やすいMS戦闘は、数を増やせば有利でもないのでしょう。ア・バオア・クー戦で、ジオン軍のギレン総帥は「圧倒的じゃないか、我が軍は」と話していましたが、舞台は遠距離でのレーダーが機能しないうえ、敵味方が頻繁に白兵戦となる宇宙世紀です。要塞の高性能センサーで、遠距離を若干捉えられたとしても、戦況を「圧倒的優位」と判断するには、敵味方の動きのクセなどを把握する必要があり、指揮は非常に難しかったと思われます。

 だからこそIQ240を誇り「戦闘を把握できる」ギレンが、妹のキシリアに暗殺された途端、ドロスが撃沈されるなどして戦線が崩壊したということも考えられます。

 続編『機動戦士Zガンダム』では、大規模艦隊同士の決戦はほぼ起こらず、小兵力同士の戦闘が増えましたが、これはむやみに数を増やしても指揮がしづらいだけで無益であり、軍の予算が非合理に増えるとして、少数精鋭主義に切り替わったためとも考えられます。キシリアが精鋭だけを集めた「エース部隊キマイラ」を編成したのは、それはそれで合理的だったのかもしれません。

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