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6年で本数“53倍”!? 高速バスで爆速成長した「新たな幹線」とは きっかけは新名神 運用効率が良すぎる!?

乗りものニュース 2024年8月11日 9時42分

コロナ禍で低迷した高速バスですが、そのなかで急成長した路線もあります。本数は6年で53倍、他社も共同運行に加わり時間によっては“4台運行”も。この路線が地域を蘇らせる可能性すらあります。

増便!増便!増便! 高速バスの新たな幹線

 コロナ禍から回復途上の高速バス業界で、驚くようなペースで増便を繰り返しているのが、神戸・大阪と兵庫県三田(さんだ)市を結ぶ神姫バスの路線です。いずれも所要時間1時間強の短距離・自由席路線で、三田市内ではニュータウン内に多くの停留所が設けられ、きめ細かく系統が設定されているのが特徴です。
 
 高速バスのニュータウン路線は、名古屋~西桑名ネオポリス(三重県)線など中京地区が充実しています。しかし大阪~三田線は、2018年に誕生してわずか数年で、1日に53往復(平日ダイヤ。以下同じ)と、それらを軽く追い抜いてしまいました。急成長の背景を探ります。

 三田市は兵庫県南東部の丘陵地帯に位置します。江戸時代には三田藩があり、近年まで独立した中小都市の趣きでした。1980年代以降、北摂三田ニュータウンの開発が進み、現在では人口の半分以上がニュータウン居住者という、神戸・大阪の衛星都市となりました。

 京阪神の各都市は、近くまで山が迫ります。首都圏の郊外が広大な関東平野に同心円状に広がるのと対照的で、関西の郊外開発は山を越えることになります。神戸郊外では、まず同市垂水区、明石市、加古川市など西側の海沿いに住宅地が連なり、地下鉄延伸とともに須磨ニュータウン、西神ニュータウンと北西方向に広がりました。市街地から六甲山を越えた先の神戸市北部では、神戸電鉄沿線の鈴蘭台などで開発が進みました。

 その北東にある三田市まで開発の波が到達した1980年代には、大阪方面に通じる国鉄福知山線(現・JR宝塚線)が複線電化され通勤路線のネットワークに入りました。そのため、北摂三田ニュータウンは大阪への通勤客を対象として開発された歴史があります。

 一方、阪神高速北神戸線の開通を受け、1999年、神姫バスが神戸(三宮)と同ニュータウンを結ぶ特急バスを運行開始します。大阪志向のニュータウンとはいえ、県庁所在地である神戸への流動も多く、鉄道だと2度の乗り換えが必要なことから順調に成長、増便を繰り返しました。

 北摂三田ニュータウンはフラワータウン、ウッディタウンなど地区ごとに順番に開発が進み、同路線も系統が枝分かれしていきます。現在では全系統合計で約100往復(三田発102便、神戸発95便)にもなっています。

毎日、通勤ラッシュの後に来る“次の波”

 そして2018年、新名神高速道路が部分開通し、並行する中国自動車道の渋滞減少が見込まれたのを機に、神姫バスが新規開業したのが新大阪~三田線です。

 最初は1往復でしたが、梅田(大阪駅)に乗り入れるなどの変化も含め、年に2度、3度と頻繁にダイヤ改正を繰り返す度に増便を重ね、2024年現在では53往復まで増えました。筆者(成定竜一・高速バスマーケティング研究所代表)の知る限り、増便のペースは全国で最速です。

 急成長の背景には、効率のいい車両運用があります。

 高速バスの短距離路線はふつう、通勤客の多い朝の上り便、夕方の下り便は乗車率が高いものの、昼間の便が「空気輸送」になりがちです。ところが、神戸・大阪~三田線にはそうならない理由があります。

 一つ目は、フラワータウン近くに立地する西日本最大のアウトレットモール「神戸三田プレミアム・アウトレット」の存在です。店舗の充実ぶりから以前より広域の集客がありましたが、近年ではFIT(個人自由旅行の訪日観光客)に人気で、特に大阪発では満席で乗り切れない便が発生するほどです。

 もう一つが、ウッディタウンの先、カルチャータウンにある関西学院大学の神戸三田キャンパス(KSC)です。同大学の拠点は阪神間に位置する西宮市ですが、1995年に理工学部が移転して以来、KSCは拡大を続け5学部体制になりました。名門大学ゆえ、かなり広域からの通学があります。

 アウトレットも大学も、需要は通勤客と逆の流れです。アウトレットの開店時刻は10時ですが、通勤客を満載して都心に8時ごろ着いたバスが折り返すのにちょうどいい時間帯です。

 大学は、9時からの「1限」こそ通勤輸送とは別の車両運用が必要ですが、11時10分開始の「2限」へは、通勤輸送を担当した車両が折り返しで入ります。夕方は、買い物客や、「3限」「4限」を終えた学生たちを乗せたバスが神戸、大阪へ向かい、その折り返し便は、仕事帰りの通勤客で満席となって三田に戻ってきます。

10分間で「8台発車」も!?

 圧巻なのは「2限」の通学時です。神姫バス三ノ宮バスターミナル9時50分発のKSC直行「関学エクスプレス」は、毎日4台体制です。その5分前にはアウトレット経由三田駅行きが、10分後にはKSC経由便とアウトレット行きが続々と発車します。

 他方、大阪発は停留所の処理能力の限界から発車を分散させています。「関学エクスプレス」は梅田発が9時45分と50分に2台ずつ、新大阪発が9時40分と45分に各1台(いずれも休講日を除く)。それを追いかけるように50分にはアウトレット行きが発車します。

 元は神姫バス三田営業所が担当していた両路線ですが、今や大阪線は阪神バスを共同運行に引き込んだほか、神姫バスの社(やしろ)営業所(兵庫県加東市)や津山営業所(岡山県)の車両が「中国ハイウェイバス」として大阪に到着後、三田へ「出稼ぎ」するなど、総力戦の様相です。

老いるニュータウン 急成長バスの“次なる課題”とは

 飛ぶ鳥を落とす勢いで成長した両路線ですが、課題もみえてきました。まず、少子化の進展です。

 今年の18歳の人口は、「団塊ジュニア」である筆者(1972年生まれ)の世代の約半分しかおらず、名門・関学と言えど学生集めに手を抜くわけにはいきません。緑に溢れ、伝統ある西宮のキャンパスのスペイン風建築を再現したKSCは魅力的なキャンパスですが、都心の大学に比べると利便性が課題です。

 首都圏でも、郊外のキャンパスへ都心から学生用のバスを運行し始めたら「偏差値ランキング」が上昇したという話もあります。神姫バス営業課長の佐藤 匡さんは「大学と二人三脚でKSCの魅力向上に努めたい」と話します。

 また北摂三田ニュータウンは、最初の入居から既に40年が経過し、「オールドタウン化」も課題です。働き盛りにマイホームを作った世代が定年退職し、通勤需要は減少します。その子供は都心近くに移り住む例も多く、街全体の人口も減っていきます。北摂三田ニュータウンは、あえて時間をかけて整備を進めたため高齢化は緩やかですが、それでも徐々に市場は縮小します。

 それを補うために必要なのが、FIT(海外からの個人自由旅行者)を含む観光需要の喚起です。

 2024年4月、神戸(三宮)~アウトレット線に有馬温泉経由の系統が新設されました。オーバーツーリズムが話題となる京都や大阪に対し、意外にも兵庫県、神戸市にはインバウンドの受け入れ余地が残っています。「神戸、有馬温泉、神戸三田プレミアム・アウトレット、さらに姫路への回遊性向上が目下の課題」(前述の佐藤さん)です。

 地元の需要を知り抜く神姫バスが柔軟な系統設定とダイヤ改正を繰り返した結果、北摂三田ニュータウンは、神戸と大阪の両都心(三宮、梅田)、新幹線駅(新神戸、新大阪)、空港(神戸空港、伊丹空港)へ乗り換えなしでアクセスできる便利な住宅地となりました。今後は、県内に広く事業を展開する同社の強みを活かし、大学やアウトレットはもちろん各地の観光産業との連携を深めることで、観光周遊回廊(コリドー)を県内に構築することが期待されます。

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