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儲かる?何のため?「青春18きっぷ」の忘れられた経営価値 このままでいいの?

乗りものニュース 2024年8月15日 7時12分

安価にJR線の普通列車が乗り放題になる「青春18きっぷ」は高い人気を誇ります。JRとしては儲かるものでは決してないはず。では、どのような目的で登場したのか――それを考えると、筆者は先行きに不安を覚えるといいます。

余る輸送力を埋めろ! 若い女性を鉄道に乗せろ!

 青春18きっぷは1982年、「青春18のびのびきっぷ」という名称で誕生しました。「えっ? のびのび!?」と鉄道ファンの間ではどよめきが起きたものでした。

 当時は、普通列車に乗り放題となる5日分のきっぷが8000円という破格の安さ。その誕生の背景は、当時の「国鉄離れ」をなんとか食い止めるため、若者を鉄道に乗せようとするキャンペーンだったのです。実はその考えの元になった、もっと凄い、とんでもないキャンペーンがあったのでした

 青春18きっぷが誕生する12年前、1970年に大阪万国博覧会が開催されました。これはとんでもない規模で、当時1億人だった日本の人口の6割にあたる6422万人もの入場があり、会場へ向かう人波は「民族大移動」と呼ばれたほどでした。このため国鉄も輸送力を大増強し、12両編成だった東海道新幹線は16両編成になり、12系客車も大量製造されました。

 この輸送は大成功だったのですが、問題が起きました。大阪万博が終了すると、増強した輸送力が余ってしまう!--

 そこで取られた策が「ディスカバージャパン」です。これは後にも長く広告業界で語り継がれた空前絶後の大キャンペーンで、キャッチコピーは川端康成、テーマソングは永 六輔、最新のファッションを纏った若い女性グループが鉄道旅をするテレビCMが流され、雑誌anan 、non-noに触発されたアンノン族と呼ばれる女性旅行者が増えました。駅スタンプも全国で展開され、時刻表には駅弁も紹介されました。

 特に大事だったのが急行列車乗り放題の「ミニ周遊券」で、若者が気軽に、気ままに乗り放題のきっぷを使って鉄道旅行をするようになります。ここから「ワイド周遊券」も売れるようになり、夜行の座席急行や夏の北海道には周遊券で鉄道旅行をする若者が多くいました。

 これをきっかけに国内旅行ブームが起き、お酒や自動車タイヤのテレビCMも旅をモチーフにしたものが作られ、少年が全国を旅する漫画も大ヒットし、日本の文化も変わりました。それまでは団体旅行の習慣しかなかった日本人が、国内を個人旅行するスタイルがここで造られたのです。

今に続くディスカバージャパン効果

 ディスカバージャパンが若者を対象にしたのは、「お金は無いが時間はあり、若いうちに鉄道旅行を体験すれば、長く一生鉄道に乗り続ける」という狙いがあったはずです。夜行の座席急行の固いボックスシートで一晩を過ごせば、特急列車の座席は魅力的に見えます。周遊券の鉄道旅行を体験した世代は新幹線の上得意客にもなったでしょう。

 現在国内旅行を支える中高年層も、ディスカバージャパンが生んだ国内鉄道旅行好きの方々が多いはずですし、「ジパング倶楽部」や「フルムーン」などのキャンペーンも、そうして育った鉄道旅行世代を対象にしていると思われます。

 青春18きっぷを生んだキャンペーン「いい日旅立ち」はディスカバージャパンほどの規模ではありませんでしたが、青春18きっぷは自動車しか乗らなかった中年層の方々にも使われ、それなりの成果はあったように感じられます。

40年前とは状況が違う? 忘れられた経営価値

 さて、現代になると状況は変わります。夜行急行や周遊券は廃止され、夜行バスや格安航空会社が発達し、若者の貧乏旅行はバスや飛行機に移りました。果たしてこの方々は将来、新幹線を移動手段として選ぶでしょうか。

 また、青春18きっぷの時期に混み合う普通列車は「儲からないから増結しない」という声も聞こえ、長時間立ち通しの人も出ています。せっかく若者に鉄道旅行を体験させても、それが苦痛であれば「鉄道は二度と使わない」と思う人を増やしてしまい、キャンペーンは逆効果になります。青春18きっぷに当初付けられた「のびのび」という名前も、ゆったりのびのびと鉄道旅行を楽しんで欲しいという思いがあったはずです。

 青春18きっぷを利用される方の年代も高くなっているように思えるのも気にかかるところです。また、2点間を結ぶ飛行機や夜行バスと異なり、鉄道は多くの駅を結ぶので途中下車ができる事は他に無い大きなメリットなのですが、途中下車ができない企画券が増えているのも気になります。

 鉄道は50年、100年と長く続くシステムです。後の鉄道を支える将来の顧客を作る長期的な視野が忘れられていないか、青春18きっぷの状況を見ると少々不安になるのです。

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