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2度あることは… 3度の大破を生き抜いた旧海軍の幸運艦 ミュージカル上演は所縁の地で

乗りものニュース 2024年8月19日 16時12分

『この世界の片隅に』のミュージカルが上演された広島県呉市。作中には重巡洋艦「青葉」が登場しますが、「青葉」はまさに呉に縁がある軍艦です。外洋で損傷するたび呉に帰り着き、最期もここで迎えました。

古鷹型との違いは?

 広島県呉市で2024年7月末、『この世界の片隅に』のミュージカルが上演されました。『この世界の片隅に』は、太平洋戦争前後の呉の街を舞台にしており、漫画原作からアニメーション映画、そしてTVドラマ化もされました。
 
 79年前の7月末といえば、ちょうど呉軍港空襲があったころです。作中では、主人公・すずの幼なじみが水兵となって乗り込んだ軍艦として、重巡洋艦「青葉」が登場します。映画のポスターにも用いられるなど、観る人に大きな印象を与えたことでしょう。「青葉」はこの空襲で被弾し、終戦時は呉港内で大破着底した状態でした。

「青葉」はもともと、古鷹型の4番艦として、1923(大正12)年に発効したワシントン海軍軍縮条約の制限内で建造される予定でした。ただ、1年早く就役した「古鷹」の運用実績から各部に改良が加えられ、艦形も異なったため、別タイプ「青葉型」として扱われるようになりました。

 特に主砲は、「古鷹」が20cm単装砲6基だったのに対し、「青葉」は射撃速度を向上させるために20cm連装砲3基へ改めており、そこが古鷹型との一番の識別ポイントです(後に古鷹型2隻も連装砲3基に改装)。

 太平洋戦争が始まると、「青葉」は同型艦「衣笠」、そして準同型艦といえる「古鷹」「加古」などと共に行動。主にニューギニア方面の南太平洋で作戦に当たりました。

 中でも1942(昭和17)年8月上旬、ガダルカナル島に来襲したアメリカ軍反攻部隊に対して夜襲をかけ撃退しようとした第1次ソロモン海戦では、戦力で勝る米豪の連合軍艦隊に対し、砲雷撃で大打撃を与えました。しかし帰路、「加古」が敵潜水艦に撃沈されてしまいます。

3たび沈没を免れる

 続いて「青葉」は、8月下旬の第2次ソロモン海戦、10月上旬のサボ島沖海戦に参加。この戦いでは、アメリカ艦隊の先制攻撃によって「青葉」の艦橋や2番、3番砲塔、カタパルト、機関部などが被弾。戦闘能力が低下したため、煙幕を出して海域から離脱しました。なんとか沈没を免れた「青葉」は、修理のために呉に戻ることとなりましたが、この際に大破した3番砲塔は撤去され、代わりに対空機銃の増設などが行われました。

 約4か月に渡る修理の後、「青葉」は1943(昭和18)年2月下旬から、再びラバウル方面で最前線に立つようになります。しかし4月3日、ラバウル近傍のニューアイルランド島においてアメリカ軍のB-17爆撃機の爆撃を受け損傷。さらに搭載魚雷の誘爆によって大破してしまいます。浅瀬だったため沈没こそ免れましたが、応急修理ののち、再び呉に戻り本格修理となりました。

「青葉」は同年12月に戦線復帰。任務はシンガポール方面での輸送でした。1944(昭和19)年10月、兵員輸送に従事したレイテ沖海戦において、潜水艦の雷撃を受け大破。修理のため、3度目の呉帰港の途に就くこととなりました。

 しかし雷撃の傷は大きく、ドックを長期間占有してしまうことから修理は後回しとされ、「青葉」は呉工廠の近くに係留されたままとなります。1945(昭和20)年2月には予備艦扱いとなり、そのまま冒頭で触れた7月の呉軍港空襲を迎えました。船体は完全には海中に没せず、「青葉」は終戦の翌年に解体されています。

 ちなみに『この世界の片隅で』のアニメ映画ポスター用に描かれた「青葉」は、最後に呉へ入港した際の様子が元となっています。

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