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「ガンダムに追加装備テンコ盛り!」はウクライナ戦争にも通じる? “弱すぎ機”でのカツ撃墜は政治的事情だった面も

乗りものニュース 2024年10月6日 19時12分

ガンダムシリーズでは主人公機に関わらず、やたらと追加装備をゴテゴテつけがちです。しかし、このようなことは現実の兵器でも実はよくあることです。

追加装備による「強化」は現実でも多い

 人型機動兵器「モビルスーツ(MS)」が戦闘の主役となる、アニメ『機動戦士ガンダム』。SF的なリアリティが初めて重視されたロボットアニメだけあって、登場する兵器は「能力向上のための改修」を施されることや、追加装備による「性能強化」が実施されることもあります。

 例えば、MS「ガンダム」は、パイロットの反応速度に機体が対応できないため、磁力を使って関節部の円滑化を図る「マグネットコーティング」で、反応速度を強化するアップデート改修が施されています。これはアニメの世界だけの話ではなく、例えば陸上自衛隊の74式戦車は時代に合わせた改修が4次にわたって行われました。

 最新の10式戦車でも、ウクライナ戦争の戦訓を取り入れた、ドローン攻撃対策が必要という意見が強まっているようです。ソフトとしては、乗組員が外に出ずとも砲塔上の銃架を車内から操作できる「リモートウェポンシステム」。ハードとしては、砲塔上面の追加装甲や、飛来物を着弾前に無力化するアクティブ防護装置の追加が検討されています。ロシアもドローン攻撃に耐えかねて、旧式戦車T-62の車体と砲塔に約3tもの爆発反応装甲を取り付けて、耐弾性向上を図っています。

『ガンダム』で言うなら、軽快な白兵戦用MSであるガンダムに、増加装甲と武装を加えた「フルアーマーガンダム」が印象的です。「フルアーマー」は、見た目が強そうなためか、人気があり、多くのガンダムタイプのMSに「フルアーマー」が設定されています。「フルアーマー」と言っていいのかわかりませんがMSより10倍以上大きい高機動大火力ユニットを追加した「デンドロビウム」や「ネオジオング」などもあるほどです。あそこまでいくと、もはや「どっちが本体……?」と思いますが。

「追加装甲」と「増加装甲」の違いって?

 後付けの装備で兵器の性能を強化するのは珍しいことではありません。第二次世界大戦中では、各国の戦車は袋に砂を詰めた「土嚢」を増加装甲代わりに取り付けていたこともあります。北アフリカのイタリア戦車などは、40mm砲の命中弾を受けても効果があったようです。ほかにも、予備のキャタピラ、鋼板、金網、チェーンなど、部隊側で支給された車両の耐弾性を上げる増加装甲として用いられていました。

 旧日本海軍も戦艦を大改装していますが、長門型戦艦などは、弾薬庫部分の垂直装甲が、元々299mm+船体内部の傾斜装甲76mmだったのに対して、傾斜部に149~249mmの増加装甲を加えていますし、砲塔前盾も装甲厚299mmだったのを、208mmの増加装甲を加えて強化しています。これなど、もはや別物レベルの「フルアーマー」ぶりといえるでしょう。ちなみに、部隊側で付けたのは「追加装甲」で、国家側が計画して装備したのは「増加装甲」と使い分けされている模様です。

 話を『ガンダム』に戻します。MSは戦車的な側面と、航空機的な側面を持つ兵器ですが、時期によって平均的な耐弾性能がだいぶ異なるように思えます。

 ジオン軍のシャアは部下のザクIIがガンダムのビームライフルで撃破されたのを見て「(ザクが)一撃で……、一撃で撃破か!?」と口にしますが、劇中のザクIIはお世辞にも耐久力が高い兵器として描写されていません。いかにバルカン砲とはいえ、現代戦車の半分の口径である60mm砲で撃たれて撃破される描写もあります。

 敵対する地球連邦軍のMSは最低でも90mmのマシンガン。下手をするとビーム兵器を装備していますから、ジオン軍の兵士は生きた心地がしなかったのではないでしょうか。数あるザクのバリエーションに(マンガ『プラモ狂四郎』を除いて)「フルアーマーザク」がないのは、より重装甲の重MSであるドムでも装甲で耐えられていない事実からでしょう。

 旧日本海軍の零戦(零式艦上戦闘機)は、「エンジン出力でアメリカに勝てないのに防弾したら、速度も運動性も悪い戦闘機でいい的だ。せめて運動性で回避できるようにしたい」という方針で用いられた戦闘機ですが、ザク IIに関しても「当たらなければどうということはない!」という割り切りなのかもしれません。

無茶な強化がカツの撃墜された理由!?

 その一方、続編『機動戦士Zガンダム』の時期になると、MSの耐弾性能はかなりの進歩を遂げます。新素材・ガンダリウムγが優れているのか、装甲に施された対ビームコーティングの効果が大きいのか、この時期のMSはビームライフルが直撃しても、撃墜されないことも多くあります。

 カミーユのZガンダムは、劇中後半で「オカルトパワー」によりビームを弾いた例をのぞいても、ビームの直撃を受けたのに、ほぼ無傷で戦闘を続行している例もあります。初代「ガンダム」と何度も交戦して生還しているのがシャアだけであることを考えると、長足の進歩を感じるわけです。

 これほどガンダリウム合金が進歩し、効果的な装甲材なのであれば、チタン合金セラミック複合材という旧式の装甲材であるガンダムMK-IIの性能が問題視され、追加装備で能力を強化しようと動くのも理解できます。

『Zガンダム』劇中でのガンダムMK-IIの立ち位置は、敵であるティターンズから奪取したMSというもの。いわば鹵獲兵器という扱いですが、奪取した側も連邦軍人が多くいるエゥーゴですから、わざわざ色を白く塗り替えて使っていました。「本来あるべき栄光の連邦軍で活躍したガンダムは白」という思いでそうしたのでしょう。ブレックスなど、エゥーゴ幹部はカミーユを「アムロ・レイの再来」と位置付けたい言動をしていましたから、「白いガンダムMK-II」はガンダム伝説の再来で、エゥーゴ勝利の象徴でもあったのでしょう。

 そうなるとガンダムMK-IIはもう「政治的な存在」ですから、撃墜させるわけにはいきません。そのため、Gディフェンサー、メガライダー、フルアーマーパーツなどの強化装備を、同機の製造元でもないアナハイム・エレクトロニクスが手掛けていたのだと思われます。

 Gディフェンサーは単体だと強力なビーム兵器を装備した戦闘機ですが、ガンダムMK-IIと合体したあと、不要なコクピットを切り離す設計でした。切り離されたコクピットは運動性能も火力もないため、乗っていたカツは簡単に撃墜されます。明らかに人命を軽視した設計のように感じるものの、それを詰める時間がないほど「早くガンダムMK-IIを強化しろ」という要請が大きかったのかもしれません。

 このような様々な「追加装備」でも政治的背景を考えられるところが、『ガンダム』シリーズの物語の広がりであり、楽しみの一つなのだと筆者(安藤昌季:乗りものライター)は考える次第です。

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