選挙運動で候補者が使用できるのは四輪自動車の「選挙カー」だけではありません。じつはオートバイや原付、自転車、船だって使用できます。
オートバイや船も選挙運動に使えるの?
選挙が始まると候補者の名前を連呼しながら市街地を走り回る「選挙カー」を見る機会が増えます。その多くが乗用車や商用バンなどをベースにした自動車、すなわち四輪車です。
とはいえ、選挙カーに使用できるのはそれだけではありません。じつはサイドカー付きも含むオートバイや、「トライク」の通称で知られる三輪バイク、原動機付自転車(原付)、船舶、さらには自転車なども公職選挙法と過去の慣習から使用が認められています。
実際、県や市町村議会などの地方選挙では、機動力と有権者へ親しみやすさをアピールするためにオートバイやトライクで選挙を戦う候補者を時折見かけます。
筆者(山崎 龍:乗り物系ライター)が千葉県選挙管理委員会に電話で確認したところ、公職選挙法では125cc以上のオートバイ(軽自動二輪と小型自動二輪)やトライク(三輪乗用車)を「選挙カー」として使用する場合は、四輪自動車と法律上は同じ扱いになるとの回答でした。すなわち、音響設備や看板の設置が可能で、走行中の候補者氏名の連呼行為も認められます。
四輪の「選挙カー」の場合は、屋根の開くオープンカーの使用は認められていませんが、オートバイは構造的に固定ルーフを設けることが難しいため、屋根のない状態でも「選挙カー」として使用することが認められています。
ただし、オートバイの場合も道路交通法や車両運送法を遵守しなければならず、加えて四輪の「選挙カー」のようなシートベルトの着用義務免除のような規定もないため、乗車中はヘルメットの着用義務が生じます。なお、三輪自動車として登録されたトライクは、ヘルメットの着用は義務ではなくあくまでも任意であることから、ノーヘルでもOKです。
原付や自転車の使用に制限ないってホント?
オートバイを選挙運動に使用する際は、演説台を設けることが構造上、難しいほか、四輪自動車と同じ大きさの看板を設置することも困難であることなどから、音響設備の搭載にも物理的な制約が生じます。さらにオートバイの乗車定員は2人のため、6人まで乗車が認められている四輪車に比べると選挙運動をするうえではマンパワーの面で不利となります。
必然的に候補者自らがドライバーを務めることが多くなるでしょうし、後部座席に候補者もしくは運動員を乗せての選挙活動はライダーの体力的な消耗が激しく、また雨や風などの悪天候に弱い乗りものでもある以上、安全性などを考えると、あまり「選挙カー」に適した乗りものとは言えないようです。
いわゆる「原付」と呼ばれる125cc以下のオートバイと、自転車やリヤカーなどの軽車両については、じつのところ公職選挙法に禁止規定がありません。これらの車両についても千葉県選挙管理委員会にハナシを聞いたところ、「歩行中の選挙活動に準ずる」との回答を得ました。すなわち、これら乗りものを選挙運動に使用しても問題はなく、台数制限などもないことになります。
ただし、車両扱いとはならないため「選挙カー」のように看板を設置したり、名前の書かれた「のぼり」などを車体につけたりすることはできません(候補者が「たすき」をかけて乗車することは問題なし)。また、走行中に連呼行為をすることも認められてはいないそうです。
島しょ部での使用例が多い「選挙船」
選挙運動を支える乗りものは、自動車以外にも船舶があります。言うなれば、「選挙カー」ならぬ「選挙船」です。選挙運動に使う船舶は、「選挙カー」と同じく音響設備や看板も使えますが、乗車定員や看板のサイズなどには自動車と同じ制約があります。
選挙運動に使う船舶は、島しょ部や、都市部でも水路の多い選挙区で使用されることがほとんどで、その多くは漁船やモーターボートなど比較的小さなサイズの船舶が使われることが多いようです。
ただし、選挙運動に使用できる船舶や自動車は、原則として候補者1人につき1艘もしくは1台までと定められているため(参議院議員選挙の比例代表選出の場合は2艘もしくは2台まで)、船舶を使用する場合は「選挙カー」を使用できなくなる弊害も。こうしたことから、利便性などを考慮して今ではほとんど見かけなくなっていると考えられます。