アメリカで「空飛ぶペンタゴン」とも呼ばれるのが、E-4「ナイトウォッチ」国家緊急空中指揮所です。就役から半世紀が経過したため代替わりの予定ですが、最新型機がベースになると思いきや、“大韓航空のお下がり”になりそうです。
世界の終わりの日にくる「空飛ぶペンタゴン」 実は冷戦時代の申し子
アメリカに「世界の終わりの日のための飛行機」と呼ばれるE-4「ナイトウォッチ」国家緊急空中指揮所が、ついに代替わりの時を迎えようとしています。
同機は核戦争・大規模災害などに際し、地上での指揮が取れない場合に備えて、大統領や国防長官などがアメリカ軍を空中から指揮統制するための機体で、「空飛ぶペンタゴン(国防総省)」とも呼ばれます。飛行要員と任務要員を最大112人搭乗させることができ、アメリカ空軍史上最大の乗員数を誇ります。
全面核戦争の最中、空中に退避してでも軍を指揮して戦い続けようとするとは、まさに冷戦期を象徴する刹那的な機体です。しかし高度な通信システムを生かして、大規模災害対応で連邦緊急事態管理庁(FEMA)の臨時現地指揮所になるなど被災地支援にも使われています。
基本的に行動は秘密ですが、24時間体制で運用されており、大統領が専用機「エアフォースワン」で海外に飛ぶときには、一緒に目的地近くの空港に移動しているのが目撃されています。
E-4はボーイング747-200B旅客機の改造型であり、現在は4機が運用されています。ただし初号機の就役は1973(昭和48)年7月で、改修は行われているものの老朽化は否めません。
アメリカ空軍は2019年から、その後継機を開発するサバイバブル・エアボーン・オペレーション・センター(SAOC)プログラムを開始し、2024年4月26日にシエラネバダコーポレーション(SNC)社が主契約者に選ばれます。
注目はどのような機体を使うかです。「空飛ぶペンタゴン」は高度な指揮通信システムの塊ですので、ベースは最新型機となりそうですが、SNCは、大韓航空で退役予定のB747-8I旅客機の中古を5機購入して改造することを明らかにしたのです。
なぜ、お下がりを「空飛ぶペンタゴン」に?
これは空軍が指定した仕様に基づくものです。機体は2025年9月にはSNCに引き渡されます。B747は「ジャンボジェット」の愛称で一世を風靡した大型旅客機ですが、E-4でベースとなったのと基本は同じタイプであり、就役から半世紀以上経過し退役も進んで、日本の空港では見かけることは少なくなりました。
なぜ旧式とも言える中古ジャンボジェットを今更選択したのでしょう。理由のひとつはエンジンが4基あるということです。
E-4を運用する、アメリカ空軍ネブラスカ州オファット空軍基地の第595指揮統制群司令官ブライアン・ゴールデン大佐は、2022年に次のように述べています。
「新品の航空機を購入する必要はありません。クルマとは違います。数年前のものでも、5年前のものでも古い航空機を買うことは可能であり、エンジニアはそれを分解して作り直すことができます」
「私たちのミッションセットを遂行するには非常に大型の4発機が必要です。多くの議論がありましたが、双発機では不十分です。空軍はリスクを負えません」
長距離洋上飛行で安全性に優れるのは、エンジンが2基の双発機か4発機かという議論は長年続いており、「グライダーならエンジンが故障することはない」と、コメディアンでパイロットでもあるジョン・キングが冗談ネタにまでしました。燃費の問題、ETOPS(双発機が洋上飛行や遠隔地へのフライトでどの程度の距離まで飛行可能かを定めた基準)見直しやエンジンの能力と信頼性向上で、エンジンの数が増えると複雑さが増し、かえって信頼性が低下するという指摘もあり、現代では長距離旅客機も双発機が主流となっています。
日本の政府専用機もE-4とは用途は違うものの、B747から双発のB777に交代しています。しかし時流に逆らうように、アメリカ空軍のゴールデン大佐は「空軍のニーズは民間機とは違う。冗長性からも4発機が必要なのであり、古さは重要ではない」と強調します。
機体は中古でも内蔵するシステムは最新
B747-8はB747シリーズの最終モデルですが、2023年1月に製造を終了しています。4発旅客機の新造プラットフォームはありませんので、アメリカ空軍は中古機を購入するしかなかったわけです。
ほかにも政府が「完全にオープンな調達」で「中古の民用機を検討する用意がある」という方針を示していることもあり、中古のB747を使うことは製造コストの削減、更新の迅速さ、運用経験と信頼性、既存整備インフラが使えるなどの利点もあるようです。
機体は中古でも、内蔵するシステムは最新です。任務の性格上機密が多いのですが、持続的な空中作戦を可能にする空中給油能力、電磁パルス(EMP)および核の影響に対する防護、核指揮・制御・通信(NC3)能力、モジュラー・オープン・システム・アプローチ(MOSA)に基づくセキュアな通信およびプランニング機能が備わっており、核戦力指揮能力はしっかり強化されています。災害対応ではなく、主要な任務は核戦争対応であることを再確認させられます。
ただ、もし本当に「世界の終わりの日」が来たら、エンジンがいくつあろうと最後はグライダーになってしまうというのは冗談にもなりません。