自動車ユーザーにとって複雑かつ重くのしかかる自動車諸税。この見直しを求める動きを取り巻く状況が、衆院選の結果で大きく変わりました。見直しの時期までに、よりユーザー目線の税制を示せるか、そのカギは野党が握っています。
野党に“お伺い”を立てないといけなくなった与党
自動車関係諸税の改正が、国民民主党の躍進でクローズアップされています。与党の税制調査会への“お願い”1本だった税制改正までの道のりに、野党の協力が必要になったためです。そんな中で日本自動車会議所が「税制改正に関する要望」を関係省庁などに行いました。
日本の自動車税制は、自動車所有者やユーザーに対していくつもの税目が重なった上に、さらに例外的な税率が課せられ、複雑かつ重くなっています。クルマにかかる税金が世界一高いと言われるほどです。
不満はさまざまな形で発信されて、その改正が予定されていますが、2024年11月の首班指名のタイミングが特別に注目されていることには理由があります。
新年度の税制は例年、前年度の秋から政治家によって議論されます。自民党と公明党の税制調査会が各党で議論し、12月末に新年度の方向性を「与党税制大綱」という形で合意。その内容を受けて、同月内に政府は「税制改正の大綱」を閣議決定し、翌年の国会で審議・成立させるスケジュールです。自動車関係税制の見直しは、こうしたスケジュールの中で行われています。
昨年に決まった2024年度の与党税制大綱では、関係者の毎年の要望が実り、例年とは違った“自動車税制分け目の年”になる文言が、盛り込まれました。一部を省略して、そのまま掲げます。
「自動車関係諸税の見直しについては(中略)国・地方を通じた財源を安定的に確保していくことを前提に、受益と負担の関係も含め、公平・中立・簡素な課税のあり方について、中長期的な視点に立って検討を行う。その際、電気自動車等の普及や市場の活性化等の観点から、原因者負担・受益者負担の原則を踏まえ、また、その負担分でモビリティ分野を支え、産業の成長と財政健全化の好循環の形成につなげるため、利用に応じた負担の適正化等に向けた具体的な制度の枠組みについて次のエコカー減税の期限到来時までに検討を進める」
ここでいう「エコカー減税の期限到来時」とは、2026年春のことです。
衆院選の結果「予測不可能」な事態に
自動車に関係する税金は幅広いため、とても秋から冬にかけての短期間に決着できません。2024年度税制大綱では、2024年末までに税制の基本的な考え方を示し、さらに2025年末までに新しい自動車関係税制を示して、「エコカー減税の期限到来時」に間に合わせることを決めたのです。
そこに予測不可能な事態を持ち込んだのが、先の衆議院議員総選挙の結果でした。与党が過半数の議席を獲得できなかったことで、2025年度の税制を実現させるためには、野党の協力を得なければならなくなったのです。これが政策協議といわれるものです。
首班指名前の現時点で、前向きな姿勢を見せているのが、議席を大きく伸ばした国民民主党です。
同党は、トリガー条項の適用でガソリン・軽油価格の引下げを主張するほか、玉木雄一郎代表が関係省庁を訪れる形で自動車窃盗問題に取り組むなど、所有者や利用者目線に立った活動を続けてきました。税制の改正は自動車関係団体選出の議員が多く所属する点で、外せない重要課題でもあります。
自公両党で構成する与党に過半数以上の議席があれば、自動車の所有者や利用者が望む方向に検討が進んだとしても、厳しさが残ることは否めません。後述する「当分の間税率」による重課税、燃料税に消費税を二重課税するなどの税制は、与党税制の検討の積み上げで決まったことです。これを変えるためには、長期に及ぶ税制を変えるだけの理由や代替の財源が明示されている必要があります。
ここで、国民民主党のような考え方の野党が政策協議に加わるとすれば、自動車の所有者や利用者の目線に、より内容が変わる可能性があります。
新しい自動車関係の税金、その改正ポイントは、シンプルではっきり!
前出した日本自動車会議所は10月29日までに、2027年度の税制についての要望を経済産業省、国土交通省、環境省の3省に実施しました。会議所は自動車関係162団体を会員に、学識経験者で構成される要望・提言の団体です。新しい自動車税制の内容は、ここから推測することができます。
現在の自動車税制改正の問題点は、税体系や課税根拠が環境変化に適応できていないことです。そのため日本自動車会議所は抜本的な見直しが必要と主張しています。
自動車税に関する基本的な考え方は、単純な課税です。自動車の税金は大きく分けて、クルマを所有した時に発生する「取得時課税」と、保有し続けることで発生する「保有課税」があります。いくつもある自動車の税金を、大きくこの2種類に整理します。
・取得時課税は、消費税に一本化する
・保有時課税は、「重量」+「環境性能」に応じた課税
・軽自動車税は「定額」+「環境性能」
さらに、課税の方法について提言します。
・重量税の「当分の間税率」の廃止
・燃料課税の「当分の間税率」の廃止
・ガソリン、石油課税の「当分の間税率」の廃止
・ガソリン、石油課税にかかる消費税の解消
当分の間税率とは、文字通り「当分の間」とりあえず税率を引き上げて、時期を見て改めて税率を考えようと始まったはずが、50年間も続きました。
会議所の要望書には、もっと細かく多くの要望が掲げられています。このなかには、環境適応のために50ccエンジンバイクがなくなることで、税金値上げの瀬戸際にある新基準原付への課税も含まれています。
新しい自動車税制についての要望が、どこまで実現するかはわかりません。ユーザーが負担する自動車関係諸税は約9兆円ありますが、抜本的な見直しを断行するならば、自動車所有者のみが税負担する仕組みから、受益者全体の公平な負担に、課税の対象を広く拡大していくことを考えなければなりません。
いずれにしろ、はっきりとした全体像が国民に示されるのは、2025年12月末です。ただ、その前にどこまでの見直しがなされるかの方向付けは、今まさに議論が始まろうとするところです。締め切りは2024年12月末です。