2024年10月中旬に東京ビッグサイトで開催されていた「2024国際航空宇宙展」の航空自衛隊ブースに、赤白の国産無人機が展示されていました。ただ、この機体は現在研究しているものではないとのこと。出展の意図を担当者に聞きました。
2024年の国際航空宇宙展に展示された20年前の無人機
2024年10月16日から18日にかけて東京ビッグサイトで開催された「2024国際航空宇宙展」。ここでは日本や海外の航空宇宙関連の企業が多数出展し、自社の新しい製品や技術を展示していました。
新型コロナの影響で6年ぶりの開催となった今回、全体的な特徴としてドローン(無人機)に関連した展示品が多かったことが挙げられます。少子高齢化による人手不足や、戦場での人的損失の抑制などさまざまな利点があることから、ドローンは今後の航空業界にとっては不可欠な存在になるのは間違いないでしょう。
そのようなドローンで盛り上がる会場において、航空自衛隊のブースでも同種の実機が展示されていました。
航空自衛隊ブースの機体は「無人機研究システム」と呼ばれ、見た目は細長いミサイルのような形状をしていますが、胴体下部には航空機のような着陸用の脚がしっかりと装備されています。
実はこの機体は最新のモノではなく、防衛装備庁と富士重工業(現SUBARU)が2008年頃に試作した試験機で、現在はすべての試験を終えて使われなくなった機体なのです。
防衛装備庁は1995年頃より、航空機から空中発射する無人機「多用途小型無人機(TACOM)」の研究開発を始めていました。その後、F-15戦闘機から空中発射して、陸上基地へと自立飛行で戻り着陸。このような形で再利用できる機体として、この「無人機研究システム」は開発されています。
機体は事前にプログラムされた経路に沿って自律飛行し、GPSを活用して着陸も自動で行うことができました。胴体下部には映像を撮影するカメラが搭載され、映像情報などのデータを収集し、それを伝送することも可能だったそうです。
4機が製造され、各種試験の結果、所望の成果が得られたことから2016年12月に運用は終了。機体は展示機となり、1号機が入間基地内の修武台記念館、4号機が府中基地の敷地内にそれぞれ展示されています。今回、国際航空宇宙展に展示されたのは前者、すなわち1号機です。
「無人機研究システム」の性能は、現在のドローンでは実用化された技術であり、この機体自体は決して目新しいモノとはいえません。それでも航空自衛隊がブースで展示した理由は何なのでしょうか。ブースの担当者に聞いてみました。
あえて展示したその意味を空自に直撃
航空自衛隊のブース担当者は「無人機研究システム」を展示した理由を次のように説明してくれました。
「トレンドとして無人機というものが注目されており、我々にとっても人材不足などを考えると重要な要素といえます。グローバルホークのような海外製の無人機の運用も開始されていますが、国内でも昔から無人機の技術と知見を獲得するために研究を続けてきたということを、歴史とともに振り返る意味でこの機体を展示しました」
この「無人機研究システム」は実用機として装備化されることはなく、航空自衛隊も現在はアメリカのノースロップ・グラマン社が開発した大型の無人偵察機RQ-4「グローバルホーク」を導入・運用しています。一見すると、この機体の開発と試験は無駄なようにも思えますが、もともとこのプロジェクトが「量産を前提としない研究開発」として始まったそうで、その研究から得るモノは多かったとのこと。
「我々は2004年頃から行っており、無人機の技術の重要性を認識していました。この機体では無人機の自律飛行や、搭載したカメラの映像を伝送する通信技術などの研究を行いましたが、我々も無人機に対する知見を得て、それをどのように使っていくかの運用構想的なものを学ぶことができました」(担当者)。
本機の開発が始まった頃は、無人機はまだ標的機や偵察機など補助的な任務でのみ使われおり、ドローンというフレーズも一般的な名称ではありませんでした。
そのため前出の「無人機研究システム」は、ある意味「無人機の走り」という存在でした。そのことを鑑みると、航空自衛隊や国内のドローン産業からみても歴史的に重要な機種だったといえるでしょう。
RQ-4「グローバルホーク」やMQ-9B「シーガーディアン」など、防衛省・自衛隊をはじめとして海上保安庁などで運用されている中・大型の無人偵察機はのきなみ外国製ですが、日本のドローン史を後世に伝える存在として、無人機研究システムは国際航空宇宙展に展示されたようです。