JR東海が毎年行っている「総合事故対応訓練」が今年も実施されました。「有事」に備え、新幹線は対応力を高めつつあります。
新幹線を「横につなげる」訓練も
JR東海は2024年11月7日、東海道新幹線の総合事故対応訓練を三島車両所(静岡県三島市)で実施。約700人の社員が参加し、業種の垣根を超えた訓練が行われました。今回は、おそらく利用者にとって“最悪のシナリオ”を想定し、新幹線に対向列車が横づけして救援する珍しい光景を見ることができました。
JR東海は、国鉄が分割民営化された1987年から毎年、総合事故対応訓練を行っています。新幹線は今年、南海トラフ地震の臨時情報を受けた徐行運転や、大雨による運転見合わせなどが相次ぎました。そうした事態を受けて訓練を行っているわけではなく、以前から「有事」に備えて対応力を高めているのです。訓練の内容も、近年の事象を踏まえて柔軟に変更されています。
今回は、巨大地震の発生を想定した「脱線防止ガード」の点検訓練や架線断線を想定した復旧訓練、また停電が発生した列車を対向列車で救援する訓練などが行われました。
「脱線防止ガード」とは、レールの内側に並行して敷設されるもので、車輪がレールから脱線逸脱することを防止する役割があります。地震で線路が揺れると、片方の車輪がレールと衝突し、反動で反対側の車輪が浮き上がります。ここで線路が逆に動くと「ロッキング脱線」が生じることになります。
今回はこの「ロッキング」が生じたことを想定し、停止した車両の下にある「脱線防止ガード」を点検する訓練が初めて取り入れられました。訓練では、線路の点検に使用する「アルミカート」に乗った作業員が到着し、徒歩で新幹線の床下や線路を覗き込んで点検していきます。非常に地味な作業に見えましたが、「脱線防止ガード」は車両に近く、列車の運行に直結する設備のため、運転再開には不可欠な点検なのだそうです。
「冷房が使えない」という災害
架線断線を想定した復旧訓練では、飛来物で架線が切れ、トロリ線が垂下して停電が発生した事態を想定。停電区間に停車し、車内電源が使えなくなった列車を停電区間外に移動させる「電源確保作業(仮復旧)」と、断線した箇所に列車を走行できるようにする「架線断線復旧作業(応急復旧)」が実演されました。
仮復旧から応急復旧まで、一連の流れを通しで行う訓練は今回が初めてとのこと。電源供給から運転再開に至る時間の短縮を目指し、練度を高めているといいます。
停電した列車を対向列車で救援する訓練では、2編成の新幹線を結ぶ渡り板を11号車付近に設置。この渡り板は、車いすも通すことができる幅があり、実際に車いすを通過させる訓練が行われました。新幹線に別の新幹線が「横づけ」して救援するという、普段はまず見ることができない珍しい光景です。
JR東海の辻村厚 常務執行役員 新幹線鉄道事業本部 本部長は「酷暑期などに停電区間に列車が停止してしまった場合、いち早く電源を復旧させて冷房を使えるようにしないと、病人が出てしまいます」としたうえで、「早期の運転再開も重要ですが、まずはお客様の救済を第一に考えるような形に訓練内容を変えています」と述べました。