相模原市の橋本駅で、リニア中央新幹線の新駅を建設する巨大な工事が進んでいます。ただリニアの開通はまだまだ先――ということで、工事現場をイベント会場にする全国的にも珍しい取組みが行われました。
ジャンクション駅「橋本」駅前まるごと工事中
神奈川県相模原市にある橋本駅では、南口駅前でリニア中央新幹線の新駅を建設する工事が進み、巨大な「地下神殿」のような構造物が出現しています。この工事現場で2024年11月9日と10日の2日間、「さがみはらリニアフェスタ」が開催されました。工事現場をイベント会場にするという全国的にも珍しい取組みです。
新駅は、地下3階建ての「神奈川県駅(仮称)」として建設が進められています。地下約30m、幅最大50mの空間に設置。ホームは2面4線で、通過列車の退避が可能な構造になる予定です。この場所にはもともと、県立相原高校がありましたが、駅の設置決定により、高校は約1.5km南西の橋本台地区へ移転しています。
駅部は地上から開削し、駅施設を構築していきます。駅の構造物は延長約680mに及びます。そのうち、西端にある国道16号との交差部分(延長約70m)は、鋼材でトンネル部の仮止めを行い、地上の掘削を行わず掘進する「URT工法」が採用されています。
今後は、国道16号との交差部分から名古屋方の「第二首都圏トンネル」へシールドマシンが発進する予定。東京方に位置する駅構造物の東端部には、「第一首都圏トンネル」からシールドマシンが到達する見込みです。
橋本駅の工事は2019年に着工し、既に底面までの掘削が完了。昨年10月から駅構造物の建設が始まっています。
現場では、地中壁が土圧に押されて掘削部へ倒れこまないように、壁と壁の間に「つっかえ棒」のように水平鋼材が設置されています。この構造物を「支保工」と言いますが、ここではジャングルジムのような支保工が最大で地下30mにわたって組み上げられており、まるで巨大な地下神殿のような構造物が出現しています。
現場には、掘削した箇所から発生した大量の土砂が仮置きされた山があり、そこが工事現場を一望できる「リニアひろば」となっています。ただ、この巨大な「地下空間」は今後、一転して「埋め戻す」工程に切り替わります。地底から空を見上げる風景も、いずれ見納めになるのです。
リニアの開業前から「行きたくなる駅」を目指す!?
リニア中央新幹線は2027年の開業を目指していましたが、大井川流量減少などの懸念から静岡県が南アルプストンネルの着工を認めなかったため、早くても2034年以降の開業となる見込みです。
そのため、交通結節点である橋本駅の駅前が、約10年間も活用されない状態が続くことになり、現場では地域連携の取り組みが模索されてきました。
2022年10月、工事現場で「さがみはらリニアビジョン」が開催。大規模な掘削斜面にリニアの計画や工事に関するプロジェクションマッピングが投影されるイベントが開催されました。続いて2023年10月には、地元の高校やJR東海音楽倶楽部による「さがみはらリニアコンサート」も開催され、こうした取り組みが、今回の「さがみはらリニアフェスタ」に発展していきます。
「さがみはらリニアフェスタ」は、県と相模原市、JR東海の3者による共催です。入場無料(予約制)で、地域貢献の側面が大きいイベントですが、2日間で約6000人分用意されたチケットが全て予約済みになったといいます。
初日の11月9日は、日光が底面まで降り注ぐ晴れで、「地下神殿」内に設けられた特設ステージには、多くの人が集まりました。ここに今回立って歌声を披露したのが、ミュージシャンの河村隆一さん。歌い始めると、一面に声が響き渡り、音響面でとても良い環境となっています。
イベントに駆け付けた神奈川県の黒岩祐治知事は「約10年間も巨大な空間がそのままになるのは余りにももったいない。エンターテインメントの拠点にできないかということを考え、JR東海の協力により、今日はその第一歩を踏み出すことができました」と挨拶。「今後の工事の進捗により、使える場所が変わっていきますが、その度に仮設のステージを設けたいと考えています。リニアの開業前から『行きたくなる駅』を目指していきます」と力を込めました。
このほかイベントでは、国道16号との交差部分にあるトンネル内に、リニアのプロジェクションマッピングが投影され、中央新幹線の開業後をイメージできるような映像を見ることができました。残土を積み上げた「リニアひろば」も開放され、来場者が工事現場を見学できるように配慮されていました。
また、会場の入口付近には、神奈川中央交通の「木炭バス」も展示。交通事業者の垣根を超えた協力も見ることができました。