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密室のコックピットで!? 戦闘機パイロット襲った「大トラブル」いまだ完全解決できない切実な課題とは

乗りものニュース 2024年11月27日 7時42分

大型機と違ってパイロット1人のことが多い戦闘機。単独飛行中に生理現象が襲った場合、自身で飛びながら処理する必要に迫られます。しかし、過去には手元が狂って墜落に至ったケースも。その顛末を振り返ります。

大型機ではまず考えられない墜落原因

 今から30年以上前の1992年9月8日、1機の戦闘機が操縦不能に陥り墜落しました。機種はアメリカ空軍の1人乗り戦闘機F-16C「ファイティングファルコン」、操縦していたのは同軍所属のスネルグローブ中佐です。

 なぜ墜落したのか、その原因は想像を絶するものでした。なんと、切迫した生理現象に襲われたからだというのです。

 我々一般人にとって、空の旅のトイレ問題は日常生活に根差した些細な悩みのひとつに過ぎません。国内線であれ国際線であれ、旅客機であれば機体の大小にかかわらず機内にはほぼ必ずトイレが設置されており、用を足せるのは至極当然のことです。しかし、戦闘機パイロットにとって、トイレ問題はそう簡単に片付けられるものはありません。限られた狭い空間、高度な機動性、そして生死を分ける緊張感の中で、生理現象は常に不測の事態を引き起こす可能性をはらんでいます。スネルグローブ中佐のケースは、そのことを如実に物語っていると言えるでしょう。

 当時、スネルグローブ中佐は僚機とともにトルコのインジルリク空軍基地を離陸し、イラク北西部に設けられた「飛行禁止空域」におけるパトロール任務に向かっていました。飛行計画には2回の空中給油が予定されており、その飛行時間は4時間に及ぶ長丁場となることが見込まれていました。

 そのため彼は「小用」の「ピドルパック」を携行していました。ピドルパックは中にスポンジ(または高吸収性ポリマー)が含まれたプラスチック容器で、これにより水分を吸収・保持できる「携帯用トイレ」です。

 尿意に襲われたスネルグローブ中佐は、30分間の巡航中であり、時間的な余裕があったことから、用を足すことを試みます。自動操縦に切り替え、腰ベルトの金属バックルを外し、それを太ももの上に置きました。そして飛行用手袋を外そうとした際、右手の手袋をコックピットに落としてしまいます。拾い上げようと手を伸ばしたとき、突如不運が襲います。バックルが射出座席と操縦桿の間に挟まってしまったのです。

女性パイロットにはさらに切実な問題かも

 スネルグローブ中佐はバックルを取り外そうと試みますが、F-16の操縦桿は右サイドパネルにあり感圧式であるため物理的にほとんど動かず、外すことができませんでした。

 その間バックルは操縦桿を数mmだけ右上に押し続けます。結果、機体は右へロールすると同時に降下しはじめ、最終的にはスピンにまで陥ってしまったのです。姿勢を回復させようとスティックを操作しようにもバックルが挟まっているので全く動きません。高度は3万3000フィート(約1万m)から2000フィート(約600m)まで落ちたため、スネルグローブ中佐はやむなく緊急脱出しました。ベルトを外していたため脱出できないおそれがありましたが、幸い彼は軽い打撲を負っただけで命に別状はなく、ヘリコプターによって救助されました。

 この事故は、用を足すのに失敗したという単なる「笑い話」として片付けるにはあまりにも深刻なものだと言えるでしょう。現在も戦闘機パイロットにとって膀胱の問題は存在し続けていますが、いくつかの解決策はあります。

 例えば「大人用おむつ」は古典的ながら有効な選択肢のひとつです。また事前に装着するタイプの排尿装置も開発されており、これはベルトを外さなくとも吸収できることから「アドバンスド・ミッション・エクステンダー・デバイス(AMXD)」などと呼ばれています。

 とはいえ、これらは完璧な解決方法といえるシロモノではありません。加えて、近年では世界的に女性の戦闘機パイロットも増えているため、男性とは別のアプローチでの解決法が必要なことも間違いないでしょう。

 前出のスネルグローブ中佐のF-16墜落事故は、戦闘機には酸素供給装置を始めとして様々な生命維持装置が搭載されている一方で、排尿という生理問題はいまだ完全解決できずに存在し続けていることを明らかにした一件だったと言えそうです。

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