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住宅街のビーチに「米軍が上陸してくる!?」 知られざる「沼津の激せま米軍基地」とは 住民は「なんかやってるな」

乗りものニュース 2024年12月1日 11時42分

静岡県の沼津市に知る人ぞ知る訓練場があります。一見するとただの砂浜ですが、時折、自衛隊もしくはアメリカ軍が使用しています。ただ、実は隣接する神奈川県にもかつて同じような演習場がありました。

米軍基地なのに囲われていない!?

 東京からほど近い静岡県沼津市に、本州では唯一といえる常設の上陸(揚陸)専用訓練場があります。

 通称「今沢基地」と呼ばれるこの場所は、総延長約47kmある沼津海岸の一角で、正式名称は「FAC3154沼津海兵訓練場」です。名前からわかるとおり、管理者は在日米海兵隊となっています。

 なお「基地」と呼ばれていますが、海兵隊の施設やフェンスなどがあるわけではなく、普段は釣り人や散策する地元の人たちが自由に行き来できます。実際に足を運んでも、説明を受けなければ、どこからどこまでが敷地なのかわからないほどです。

 このように、普段はひっそりとしている今沢基地ですが、その歴史は戦前にまでさかのぼります。元々は旧日本軍の訓練場でしたが、1945(昭和20)年8月の終戦後に連合軍が接収すると、1952(昭和27)年に海上部分を「陸軍訓練区域(乗下船及び積込積卸訓練区域)」、陸上部分を「沼津乗下船及び積込積卸訓練区域」として、それぞれ日米地位協定に基づき在日米軍へ提供することになったのです。

 その後、1957(昭和32)年には「米空軍水難救助訓練場」も設定され、1961(昭和36)年には「沼津海兵訓練場」へと名称を変更しています。

 こうした歴史がある今沢基地ですが、案外その経緯を知る人は少ないようで、地元住民も「今日はなにかやっている」程度の認識だったようです。

かつては湘南・茅ヶ崎にも

 とはいえ、2024年現在も海上自衛隊や在日米軍が使用しており、年に数回行われる訓練ではエアクッション揚陸艇(LCAC)や、各種重機などが動きます。そのため、沼津市は防災無線や市のホームページなどを通じて、市民に対して「危険なので今沢基地に近寄らないように」と案内しています。過去にはアメリカ海兵隊が戦車を揚陸させ、自走あるいはトレーラで東富士演習場まで輸送していました。

 ちなみに、こうした訓練場は沼津だけではなく、過去には神奈川県の辻堂海岸にもありました。

 実は辻堂海岸の方が訓練場として使われていた歴史は古く、安土桃山時代の1590(天正18)年まで遡ることができます。

 その後、江戸時代初期に今の神奈川県藤沢市から茅ヶ崎市までの海岸線が幕府領となりました。1728(享保13)年になると、享保の改革の一環として辻堂海岸一帯に相州炮(ほう)術調練場が開設されました。これは鉄砲の射撃訓練を行うことを目的としていて、その約10年後となる1738(元文3)年には大筒の射撃訓練も行われるようになったそうです。

 この訓練場は1868(明治元年)に廃止されるまで使い続けられますが、明治時代に入ると全く同じ場所に今度は日本海軍横須賀鎮守府の砲術試験場および陸戦演習場が作られ、1926(大正15)年には、より近代的な訓練が行えるように「横須賀海軍砲術学校 辻堂演習場」が設置されています。

戦車射撃で烏帽子岩が欠けた!?

 その後、太平洋戦争が勃発すると、1944(昭和19)年ごろには警察官の許可がないと一般市民は海水浴をすることができなくなるほど、激しい訓練が連日続いたと言われています。

 戦後になると、辻堂海岸一帯の訓練場は日本を占領した連合軍によって接収され、のちに在日米軍の辻堂演習場(通称チガサキ・ビーチ)として使われるようになりました。なお、このとき烏帽子岩めがけて戦車の射撃訓練も行われたそうで、この影響で岩の先端が吹き飛んだそうです。

 こうして長きにわたって演習場として使われていた辻堂海岸ですが、1959(昭和34)年には、ようやく一帯が在日米軍から返還され、徐々に現在の姿へと変わっていきました。

 このように、過去には本州に2か所あった上陸訓練場は、現在では沼津の今沢基地だけになっています。そのため、本州で行われる本格的な上陸(揚陸)訓練のほとんどは今沢基地に集中することになったのです。

 なお、本州以外の地域を見渡してみると、常設の上陸(揚陸)訓練場は今沢基地以外に、北海道の浜大樹訓練場、天塩訓練場、そして沖縄県にいくつかの在日米軍管理の訓練場がある程度です。

 危険範囲に立ち入らないことが条件ですが、今沢基地の周囲には堤防が整備されているため、そこから訓練を見学することも可能です。

 ただし、駐車場がないため、地元住民へ迷惑をかけることなどを考慮すると、公共交通機関を利用した方がよいでしょう。

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