2024年、自国の旅客機を海外にセールスする動きを大きく強めた中国。この海外進出の動きは、今後どのようになるのでしょうか。
これまでは「地産地消」だったが…
中国はこれまで自国で旅客機を作り、それをほぼ国内のみで運用するという独自のスタイルを貫いてきました。しかし、2024年は、その方針を「海外進出」へ大きくシフトさせた年だったといえるでしょう。この海外進出の動きは、今後どのようになるのでしょうか。
こういった中国製ジェット旅客機は、商用飛行に必要な世界標準といえる米FAA(連邦航空局)やEASA(欧州航空安全機関)の「型式証明」と呼ばれる認証がないため、中国国外への売り込みは難しいとされています。実際に海外の航空トレードショーでは模型のみを展示していました。
しかし、2023年12月にリージョナル機の「ARJ21」と150人乗りの小型旅客機「C919」が香港で披露され、翌々月に実施されたシンガポール航空ショーで両機種が一気に計5機展示されて、海外公式デビューを果たしました。
さらに動きはその後も続き、2024年11月の広東省珠海市の航空ショーでARJ21が「C909」へ機種名が改められ、ほかの中国製旅客機とブランド名を統一。C919よりさらに大型のC929についても、中国国際航空が世界初の顧客となる意向を示しました。
こうした「海外進出・躍進元年」の動きについて、欧米の航空関係者は「中国が将来の、民間機市場における競争相手になるかもしれない」とみています。
中国が自国製旅客機のモデル名の頭文字に「C」を付与しているのは、これらの旅客機の開発事業者である「COMAC(中国商用飛機)」の頭文字をとったものと見られます。A(Airbus)とB(Boeing)を追うこの「C」ブランドは、2025年以降さらに動きを活発化させるのでしょうか。
このカギを握るのは、今はさほど関わりを指摘されない米国かもしれません。
「トランプ政権」は中国製旅客機のセールスを
海外進出を意識したとはいえ、現状で中国が積極的に売り込むことができるのはC919のみです。C909は既に旧式化しており、海外の航空会社が関心を示す可能性は非常に低いでしょう。さらに、C929は登場するにしてもまだ先です。
このため、「アメリカ・ファースト」を掲げるトランプ次期大統領が中国からの輸入製品に高い関税をかけたとしても、そもそもFAAの型式証明を持っていないC919を米国航空会社が採用することはありません。そのため、中国製旅客機が米中の貿易摩擦の火種になる可能性は非常に低いでしょう。
しかし、中国が2025年以降も米国以外の国々へ、Cシリーズのセールスを積極的に続けるとすれば、将来的には米国メーカーを脅かす可能性はあります。米国の旅客機メーカーよりはるかに後発だったものの、いまやボーイングのライバルにまで成長したエアバスのようにです。
もしトランプ政権が、中国製旅客機が米国の旅客機産業を脅かすと危険視した場合、何がしらの対策を行う可能性は十分にあり得ます。中国にとってこれは厄介なことです。
反面、C919には米・仏の合弁会社によって製造されたエンジン「LEAP-1C」が搭載されています。つまり、少なくとも現状は、C919が開発されるとアメリカにとって利益となるわけです。そのため、トランプ政権はしばらく、中国の活発な海外セールスを“放置”するとも考えられます。
もし、中国がそこを狙って「米国の利益になる」とディール(取引)を仕掛けて成功した場合、中国製旅客機の海外セールスを静かに、かつしたたかに進めるうえで、大きな“追い風”となるわけです。
中国製旅客機は今のところ、米中間の大きな関心事ではないでしょう。アメリカ発でもある心臓部を採用した中国製旅客機は、現状では米国との“協調”関係を保っているようにも映ります。しかし、この旅客機がいずれはセールス面で米国とライバル関係となり、さらに経済戦争の俎上に上がる可能性も秘めているという、複雑な状況でもあります。