トヨタが宮内庁に納入した御料車が「センチュリーロイヤル」です。製造された4台のうち1台はワゴンボディの寝台車で、皇族の方々にご不幸があったときだけ使用される車両です。
「センチュリーロイヤル」唯一の派生型
昭和天皇の弟宮であった三笠宮崇仁親王の妃、百合子さまが2024年11月15日に逝去されました。これに伴い、本葬にあたる「斂葬の儀(れんそうのぎ)」が、今月26日に東京都文京区の豊島岡墓地で行われます。
この時、じつは世界で1台しかない車両が用いられるのではないかと推察されます。そのクルマは「センチュリーロイヤル」の寝台車です。
「センチュリーロイヤル」は、天皇・皇后両陛下や皇室の方々が、国会開会式や国賓接遇などといった、特段格式の高い行事で使用するために製造された専用車です。1967年から40年近く使用された日産「プリンスロイヤル」の後継として、現在までに4台が生産されています。
この4台のうち、最後に作られたのが寝台車になります。これは一般の霊柩(れいきゅう)車にあたるもので、2008年に宮内庁へ納入されたのち、2014年6月8日に亡くなられた桂宮さまの「斂葬の儀」において、初めて使用されました。
寝台車のベースとなった「センチュリーロイヤル」のセダン型は、トヨタの最上級セダン「センチュリー」の2代目をベースに、3列シート仕様のストレッチリムジンとして仕立てられた特注モデルです。全長は885mm伸ばして6155mmへと延長されているほか、祝賀パレードなどの際、国民から天皇陛下をはじめとした皇族のお顔がよく見えるようにと、天井を高くして窓の開口部分を大きくとっているのが特徴になります。
ほかにも変更点としては、テロ対策として窓ガラスに強化防弾ガラスを採用したり、乗り降りしやすいように観音開きのドアにしたりといった点が挙げられます。インテリアは前席が革張りなのに対して、後席は最高級のモケットというリムジンの伝統様式に則った艤装が施されており、天井に和紙、乗降ステップに御影石を使用するなど、贅の限りを尽くしたものとなっています。
じつは詳細が全く不明な現行型の寝台車
では、世界でも1台しかない「センチュリーロイヤル」の寝台車は、どのような特徴を持っているのでしょうか。
一番の特徴は、なんといっても車体形状がステーションワゴン型になっている点でしょう。これに伴い、トランクがなくなり後部扉が新設されています。ただ、宮内庁や製造元のトヨタは詳しいスペックを明らかにしていないため、実際にはどのような仕様になっているかは定かではありません。
パワートレインはセダン型と同じく、2代目「センチュリー」にも採用されている1GZ-FE型5リッターV型12気筒エンジンに6速ATが組み合わされたものと考えて間違いないでしょう。ただし、重量増加に伴い何かしらのセッティング変更が行われている可能性は考えられます。
「センチュリーロイヤル」セダン型のボディサイズは、全長6155mm、全幅2050mm、全高1780mm、ホイールベースは3090mmと公表されており、外観から判断する限り、寝台車も全長や全幅は同様と思われるものの、全高は200~300mmほど高いハイルーフ仕様になっていることがわかります。後部扉は跳ね上げ式のハッチゲートで、リアコンビランプは縦型のクリアカバータイプとなっているのが特徴です。
なお、寝台車の内装や寝台設備はメディアにすら公開されていないため、こちらも想像の域を脱しませんが、1980年にセダン型の日産「プリンスロイヤル」を改造して製造された寝台車の写真が製作当時に宮内庁から公開されており、おそらくはそれに準じた仕様になっていると思われます。
日産「プリンスロイヤル」寝台車は、一般の霊柩車と同じく座席は運転席と助手席のみの2座仕様となり、前席から後ろは寝台設備となっていました。寝台部分のこしらえは洋型霊柩車のそれに近く、内装には最高級のモケットが使用されているようですが、宮型霊柩車に使用例の多い「金華山張り」のような華美なものではありません。
皇族の葬儀のときにしか出番がない「センチュリーロイヤル」寝台車は、使用回数が少ないことに越したことはありません。しかし、同時に皇室の方々のためになくてはならない存在でもあります。
冒頭に記したように、三笠宮妃の百合子さまの「斂葬の儀」は26日に執り行われます。この日は、午前と午後の2回一般拝礼が認められています。万一タイミングが合えば、世界で1台しかない「センチュリーロイヤル」寝台車を見られるかもしれません。
※誤字を修正しました(11月24日8時50分)。