東急電鉄は駅ごとの乗降人員を公表していますが、混雑することで有名な東急田園都市線において、最も乗降人員が少ない駅はどこでしょうか。周辺の土地利用を見ると、少ない要因も見えてきました。
「田奈駅」なぜ乗降人員は少ない?
川崎市や横浜市のベッドタウンを経由し、渋谷と神奈川県大和市とを結ぶ東急田園都市線は、朝夕のラッシュ時間帯を中心に混雑する路線としても知られます。東急電鉄は毎年度、各駅の乗降人員を公表していますが、では田園都市線で最も乗降人員が少ない駅はどこでしょうか。
最新の2023年度を見ると、それは田奈駅(横浜市青葉区)です。定期券/外を合計すると9167人とのことで、田園都市線では唯一、1万人を割り込んでいます。これは、2両編成の列車が日中20分間隔で発着するこどもの国駅(同:9710人)より少ないです。実際、日中のプラットホームは閑散としていました。
同駅は各駅停車の列車しか停車せず、乗換駅でもありません。またホーム上からもよく分かるのですが、駅周辺は田畑が広がっており、田園都市線において「田園」を感じるエリアのひとつでしょう。
駅の南側を、鶴見川の支流である恩田川が流れており、特にこの流域は人家がまばら。北側に1か所ある改札口を出ると目の前は県道140号「川崎町田線」で、狭い2車線道路ながら激しい交通量です。川から遠ざかるにつれ北側は台地となり、こちらは戸建てがひしめく横浜の郊外らしい景色です。
ただ、田奈駅前を発着するバスは多くなく、東急バスと横浜市営バスが運行されているものの、東急バスに至っては1日1本のみ。市営バスはおおむね1時間に1本ですが、運行のない時間帯もあります。
一方、住居の多い北側エリアは、青葉台駅を発着するバスが運行されています。田奈駅から上り方面へ1つの青葉台駅は急行列車も停車。ちなみに田奈駅から下り方面の隣駅は長津田駅ですが、こちらも急行列車が停車するため、比較的大きな2駅に挟まれた田奈駅は、利用者が分散しているのかもしれません。
紆余曲折を経た「田奈」の名
ところで「田奈」の名は合成地名が元となっています。駅は今でこそ青葉区田奈町に位置しますが、開業時は恩田町(港北区)でした。
ただし田奈という地名は以前にも存在しました。明治時代に市町村制が施行された際、付近の恩田村、長津田村、奈良村から「田」と「奈」を取り、田奈村として発足。しかし横浜市へ編入された際に村は消滅し、今度は恩田町、長津田町、奈良町となりました。
田奈駅は開業前、仮称で「恩田駅」でしたが、旧自治体名にちなむ形で田奈駅に。その後、周辺地区が再編成されるにあたり、すでに田奈駅が開業していること、旧自治体名を復活させたいという地元の要望から田奈町(緑区)として復活。平成に入り青葉区が分区し、現在に至ります。
往々にして「田」の付く地名は稲作に関連するものですが、同地では養蚕も盛んだったようです。なお恩田駅は現在、こどもの国線に存在しますが、田奈駅からの直線距離は1.5kmほど。青葉区恩田町とあかね台にまたがります。そして駅前を流れる川は恩田川の支流、奈良川です。