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『ガンダム』世界が現実に!? もはや「宇宙ケーブルカー」大手ゼネコンが語った建設期間は「意外と短い?」

乗りものニュース 2024年11月28日 19時12分

ロケットやスペースシャトルよりも手軽に安全に宇宙に行ける乗りものに「宇宙エレベーター」があります。フィクションかと思いきや、建設大手の大林組では、しっかり研究を進めているとか。担当者にハナシを聞きました。

エンタメ世界では当たり前の乗りもの

 2024年11月18日から22日まで、東京の日本橋でアジア最大級の宇宙ビジネスイベント「NIHONBASHI SPACE WEEK 2024」が開催されました。

 そこには様々な企業が出展していましたが、なかでも目を引いたのが建設大手の大林組が構想する「宇宙エレベーター」です。

 人間が宇宙まで行く乗りものといえばロケットやスペースシャトルが代表的ですが、大林組は、より簡単に誰もが利用できる手段として宇宙エレベーターを挙げていました。

 宇宙エレベーターは「軌道エレベーター」とも呼ばれる乗りものです。その名称が示すように、地上から宇宙空間まで全長9万6000kmのケーブルを伸ばし、そこにエレベーターを設置して地上と大気圏外を手軽に行き来できるようにするものです。まさしく、ビルなどの高層建築で日常的に用いられているエレベーターを、サイズアップしたものといえるでしょう。

 ケーブルの途中にはステーションと呼ばれる人間が滞在できる施設が設けられ、そこでは人間が長期滞在することも可能です。

 これまで、宇宙エレベーターは実現していませんが、宇宙まで伸びる建造物という壮大なアイディアは人々の興味を引き続け、映画やアニメ、小説、漫画、ゲームなどといったエンターテインメント作品にたびたび登場しています。近年の作品では人気アニメ『機動戦士ガンダム00』や『ガンダム Gのレコンギスタ』、TVゲームでは『エースコンバット7 スカイズ・アンノウン』などに登場しており、作中の世界観を左右する重要な存在として使われています。

 そんな架空の存在ともいえる宇宙エレベーターを、大手建築会社の大林組が真剣に検討しているというのは注目すべきことだといえます。実現すれば人類史に残る建造物となるものを、一体どのように作り上げていくのでしょうか。担当者にハナシを聞きました。

高さはなんと10万km !

 大林組の担当者によれば、同社が宇宙エレベーターの構想を発表したのは2012年で、具体的な設置の予定こそないものの、建設に必要な要素技術の研究は進めているそうです。

 宇宙エレベーターを実現するうえで一番のネックとなるのは、中核となるケーブルです。宇宙と地上を結ぶ9万6000kmもの長いケーブルを作った場合、自重を最低限に抑えるために極限まで軽く、それでいて自重に耐えられる強度に優れた素材が必要なのだとか。ただ、その相反する性能を兼ね備えたものは長らく存在しなかったため、実現はほぼ不可能だったようです。

 ただ、1991年に新素材として鋼の20倍の強度があるカーボンナノチューブが発見されたことで、宇宙エレベーターが理論上は実現可能なアイディアへと昇華。こうして、それまではSF世界の産物だったものが、実在する建設会社でも検討に値する現実的なプロジェクトになりました。

 全長9万6000kmにもなるケーブルの宇宙側の先端には「カウンターウェイト」と呼ばれる重りを付け、これによって地球の遠心力と重力の釣り合いを取ることで、ケーブルが地上から宇宙まで塔のように伸びます。

 建設にあたってはケーブルを地上から宇宙へ伸ばすことはできないため、ケーブル自体を高度3万6000kmの静止軌道上まで打ち上げ、そこから地上に向けて垂らすという方法が採られます。実際には静止軌道を起点にして、先端部は上昇しながら伸ばしていき、末端部分は地上に垂らすというのを同時に行うことで全長9万6000kmを実現するのだそう。ただ、ケーブルを伸ばすだけで約8か月もの長い時間が掛かるとのことでした。

 こうしてケーブルを設置したら、次に「クライマー」と呼ばれる建築機材を地上から上げていき、ケーブルを500回ほど補強して十分な強度を確保。そして70tの貨物を運搬できる大型クライマーによって重量物が運搬できるようになると、それを使って一気に4000tの資材を運んで高度3万6000kmの静止軌道上に宇宙ステーションを建設します。

想定される建設期間は驚異の長さ

 今回の大林組の展示によると、2025年に宇宙エレベーターの地上施設であるアース・ポートの工事を始めた場合、2030年に最初の作業用ロケットを打ち上げ、2050年には静止軌道ステーションの供用開始が想定されるとのこと。ちなみに、日本屈指の巨大建築物といえる青函トンネルの建設期間は26年なので、ほぼ同等といえるでしょう。コストは、施設すべての建設費用が10兆6600億円と推計されていました。

 なお、本計画に必要な新技術は、ケーブルのカーボンナノチューブ以外にも多岐に及んでおり、展示でも「宇宙エレベーターの実現に向けては、多くの課題の解決に向け世界中の英知を集結することが求められます」と説明していました。担当者も宇宙エレベーターの実現には「技術的ないくつものブレイクスルーが必要」と述べていたことから、実現はまだまだ先のようです。

 しかし、もし実現した場合、このエレベーターは宇宙への移動手段だけでなく、その他の用途にも利用できます。ステーションで太陽光発電を行えればエネルギー問題の解決にもつながるほか、研究・生産設備を設置することで科学・産業界にも役立つことでしょう。

 また、重量物を軌道上まで上げることができれば、現在主流のロケット打ち上げも不要となるため安全性も格段に向上するほか、より大きく重い構造材の宇宙への運搬も可能になります。その結果、他惑星への宇宙進出の拠点にもなるでしょう。このように、宇宙エレベーターは人類にとっての重要なインフラとなる可能性を秘めているのです。

 エンタメ界での知名度とは裏腹に、その壮大な規模ゆえに現実感の薄い宇宙エレベーター計画。前述したように現時点では具体的な建設の予定はありませんが、その研究は各所で進められています。そのため、将来的には人類が成し遂げた最大の建造物として実現する日が来るかもしれません。

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