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遂に消滅!「日本のトロリーバス」でも今も現役の街あります トラブルも「ならでは」で楽しい!?

乗りものニュース 2024年12月15日 9時42分

日本では山岳観光ルート「立山黒部アルペンルート」(富山、長野両県)に残っていた唯一のトロリーバスが運行を終えましたが、海外では活躍を続けている都市があります。中でも北米には幅広い路線が走っている地域があります。

日本ではラストラン、でも海外は都市部で存続

 日本で唯一運行していた立山黒部貫光(富山市)のトロリーバスが2024年11月30日、営業運転を終了しました。日本で最初のトロリーバスが営業運転を始めたのは1928年のこと。それ以降、約96年間にわたる我が国のトロリーバスの歴史が、今回の運転終了によって幕を閉じたことに対し、残念がる声がSNSなどを中心に出ています。

 トロリーバスは屋根に取り付けた棒状の集電装置「トロリーポール」を使い、空中に張ったトロリー線(架線)から電気を取り込んでモーターで走ります。

 走行中に二酸化炭素(CO2)を排出しないため、環境性能に優れているのが特徴です。前出の立山黒部貫光のトロリーバスは、立山の主峰・雄山(標高3003m)の直下を貫通する「立山トンネル」の室堂~大観峰間、約3.7kmを結んでいました。

 この立山トンネルを含む「立山黒部アルペンルート」は、ほぼ全区間が中部山岳国立公園内のため環境保全が必要で、以前は立山トンネルだけでなく、扇沢~黒部ダム間の関電トンネル(6.1km)でも1964年から2018年までトロリーバスが走っていました。

 ただ、こちらは2019年以降、同じく走行中にCO2を出さない電気バスに切り替わっており、このたび営業運行を終えた立山トンネルについても2025年からは電気バスが導入されます。

 トロリーバスのルーツはドイツで、1882年に試験運行が始まっています。その後日本を含む世界に普及しました。我が国では路面電車より安く建設できることが追い風となり、高度経済成長期の昭和30年代には東京都や横浜市、大阪市などの大都市で見かける公共交通機関にまで成長しています。

 しかし、モータリゼーションを背景にした道路渋滞で定時運行が難しくなり、加えてディーゼルバスの性能向上にも押される形で、昭和40年代に入ると一転して廃止が相次ぐようになりました。そして、1972(昭和47)年に横浜市から消えたのを最後に、我が国の都市部からは一掃されてしまいました。

 このように、日本では過去の乗りものという印象の強いトロリーバスですが、海外ではいまも都市部の交通インフラのひとつとして存続しています。

北米で発達した理由

 筆者(大塚圭一郎:共同通信社経済部次長)は、北米の西海岸でトロリーバスに乗車した経験があります。今でも、北米地域ではアメリカのサンフランシスコとシアトル、そしてカナダのバンクーバーに残っていますが、これら3都市のトロリーバスに共通するのは1930~40年代に営業運転が始まっている点でしょう。これには共通した理由があります。

 3都市とも、それ以前は路面電車が走っていたものの赤字が深刻化しており、整備や維持などのコストを抑えられるとしてトロリーバスに置き換えられました。

 この3都市のなかで唯一カナダにあり、かつ同国で唯一トロリーバスが走っているのがバンクーバー都市圏です。ここは1948年に運行を開始し、1955年には全廃された路面電車を置き換えました。

 運輸当局トランスリンクによると、2023年時点のトロリーバスは262台と、北米ではサンフランシスコに次いで2番目の規模を誇ります。運行されているのは、主にバンクーバー中心部を発着する13系統で、その距離は延べ約315kmにもなります。

 使っているのはカナダのバスメーカー、ニューフライヤー・インダストリーズが製造した全長12.2mの「E40LFR」と、全長18.3mの連節バス「E60LFR」。ともに低床車で車いすやベビーカーの利用者でも乗り降りしやすいのが特徴です。

 なお、運行元のトランスリンクによると、平日1日あたりの利用者数は延べ10万人を超えるとしています。

 トランスリンクのケビン・クイン最高経営責任者(CEO)は「トロリーバスはバンクーバー都市圏の気候変動対策の極めて重要な部分となっている」と話します。

 他にアメリカのシアトルでは1940年にトロリーバスが営業運転を始め、現在はキング郡交通局が運行しています。

乗車中に起きた突然のアクシデント

 一方、1935年に営業運転が始まったのがサンフランシスコです。運行しているサンフランシスコ市営鉄道(MUNI)は2023年時点で運用可能なトロリーバスを278台抱えており、MUNIは「私たちは北米の公共交通機関で最多のトロリーバスを保有している」と豪語しています。

 ちなみに、アメリカ公共交通協会(APTA)によると、MUNIの2023年のトロリーバス累計利用者数は4224万人と、北米最大でした。

 MUNIは将来のCO2排出実質ゼロに向けたゼロエミッション化で「トロリーバスは極めて重要な役割を果たす」と指摘。トロリーバスを「将来は一部延伸することが約束されている」と、拡充に前向きな姿勢を示しています。

 筆者は、このMUNIで印象的な思い出があります。2015年4月の夜の乗車中に突然、車内が真っ暗になって止まりました。トロリーポールが架線から外れたのです。

 運転手は舌打ちをすると前扉を開け、トロリーポールを架線に当てるために長い棒を抱えて車外に出て行きました。作業を終え、運行を再開するまで5分近くかかりました。

 もっとも、MUNIのトロリーバスは、その後ニューフライヤー製の新型車両に更新されています。筆者が乗った古い車体は姿を消していることから、現在はトロリーポールが架線から外れるトラブルは発生しにくくなったかもしれません。

 サンフランシスコとシアトル、バンクーバーにはいずれも直行航空便が日本と結んでいます。これら3都市に足を運べば、日本では体験できなくなったトロリーバスに乗車することはまだまだ可能です。

 ちょっとしたトラブルすら楽しめるかもしれない、歴史ある公共交通機関を体験するために訪れてみてはいかがでしょうか。

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