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退役したけど引退してない!? 米軍も驚かせた日本戦車の野心作 「74式」を振り返る

乗りものニュース 2024年12月18日 16時12分

2024年3月に全車が退役した陸上自衛隊74式戦車。しかし2025年度の防衛省概算要求からは、まだ残るのではないかとも読み取れます。日本独自の機能を持ち、半世紀にわたって配備された74式は、どんな戦車なのでしょうか。

防衛省概算要求に意味深な文言が

 陸上自衛隊74式戦車が2024年3月、全車退役しました。「74式」の名の通り1974(昭和49)年に制式化され、以降半世紀も現役だったのです。製造数も873両を数え、自衛隊の戦車としては最大。ただ、この74式の“引退”はまだ先になるかもしれません。

 というのも2024年8月、「退役した装備の一部を破棄せず、必要に応じて再利用できるよう保管する」ことが、2025年度の防衛省概算要求に盛り込まれたからです。74式も一部が保管されると考えられています。

 そもそも74式は、自衛隊初の国産戦車であった61式の後継として開発されました。61式は日本の基礎技術力不足もあり、同世代の外国戦車と比較して攻撃力、防御力ともに劣っており、特に90mm主砲の火力はかなり劣勢でした。そこで火力増強、あるいは105mm砲を搭載した新型戦車の開発が必要と考えられたのです。

 これには数々の性能が求められました。例えばソ連のT55のように、低姿勢、後輪駆動、卵形砲塔、低車高で105mm砲搭載、あるいはアメリカのMBT70のように副兵装のリモコン操作と大転輪方式、ほかにも近代的主力戦車の必要条件と見られていた潜水渡河能力や全天候対応、レーザー測距、電子式弾道計算機、スタビライザー、暗視装置の装備などです。

 当時は自衛隊に批判的な世論も強く、長期間の海外視察が困難だったことから、三菱重工経由でイギリス兵器展示会に参加し、欧州戦車の技術も取り入れました。

M1エイブラムスの試作車を上回った加速力

 当時の第2世代主力戦車の思想では、対戦車ミサイルなどは装甲で防ぐのではなく、機動力と流線形の装甲によって弾く被弾経始という考えが重視されていました。このため74式の外観は世代が近いドイツのレオバルト1やフランスのAMX-30と似ています。なお、トランスミッションと操向装置を一体化した、クロスドライブ式のコンパクトな変速走行装置を備えており、この装置を車体後方に搭載してエンジン直結としたことで、第2世代の砲塔式主力戦車で最も低い車高2.25mを実現しています。

 エンジンは当初、1000馬力を念頭に置いていましたが、結局720馬力の空冷2サイクルV型10気筒ディーゼルエンジンを搭載しました。加速力に優れ、200m25秒というタイムを実現しています。

 これはアメリカの第3世代戦車であるM1エイブラムスの試作車XM1の29秒を上回り、レオバルト2A4の23.5秒に迫るものでした。 最高速度は53km/h。レオバルト1の65km/hには劣り、ソ連製T-62の50km/hはやや上回りました。

 加えて61式ではできなかった超信地旋回も可能としています。水密構造で潜水キットを装備すると、2mの潜水渡河も可能。この構造は毒ガスなどにも効果がありました。

 主砲はイギリス製の51口径105mmライフル砲を、日本製鋼所がライセンス生産したものです。車体が傾いても主砲の水平を保つ安定化装置を備えているほか、レーザー測距儀や弾道計算コンピューターなど、当時の最新技術が盛り込まれました。

 砲弾は当初、APDS(装弾筒付徹甲弾)とHEP(粘着榴弾)でした。現在はAPFSDS(93式105mm装弾筒付翼安定徹甲弾)とHEAT-MP(91式105mm多目的対戦車榴弾)となり、威力を向上させています。また、アクティブ近赤外線式暗視装置を備え、夜間射撃も可能としています。

 副兵装は砲塔左側に12.7mm重機関銃、主砲同軸に7.62mm機関銃を装備。試作車はリモコン操作でしたが、戦車の狭い視界からのリモコン射撃には無理があり、量産車では手動操作に戻されています。

アメリカ兵を驚かせた日本独自の技術とは

 防御性能は防弾鋼板の溶接構造で、複合素材は使われていません。車体前面で上部が189mm、下部が139mmあり、レオバルト1の上部122mm、下部140mmよりも重厚。T-62の上部174mm、下部204mmにも、さして遜色ありませんでした。車体幅は在来線鉄道の車両限界である3mを上回ったものの、3.18mに止め、区間によっては鉄道輸送も可能でした。

 最大の特徴は、油圧式サスペンション(ハイドロニューマチック)による、姿勢制御機能です。サスペンションが伸縮することで、標準の姿勢から車高を上下に約20cm変化させられました。サスペンションは前後左右別々に作動するので、例えば前後に6度、左右に9度傾けるなど地形への対応を可能としました。これは日本独自の発想で、90式戦車や10式戦車にも受け継がれています。

 2014(平成26)年に行われた日米共同訓練の際は、自軍のM1エイブラムスと異なり、姿勢制御機能で車体を地形に隠し、砲身のみを相手に向ける74式を見たアメリカ兵がたいそう驚き、好んで写真撮影をしたそうです。

 なお50年間も現役だったことから、近代化改装も行われています。初期型は全てAPFSDSを運用可能なB型に改修され、その後、砲身にサーマルスリーブを付けたD型となりました。

 また、射撃統制システムを改良してHEAT-MPの運用能力を持たせたのがE型で、全体の8割程度が改装されました。

 抜本的改修を行ったのが、1993(平成5)年に試作改修型として登場したG型です。目標の自動追尾機能を持つパッシブ式暗視装置や、発煙弾発射機と連動するレーザー検知装置、強力なYAGレーザーによるレーザー望遠機を装備したほか、変速装置も改修し後進2速を可能として、弱点だった後進速度を高めました。

 性能は良好でしたが、1両あたりの改修費用が1億円となり、500両を改修するなら90式を50両調達した方がよいとされ、試作に留まっています。

 現行のロシア・ウクライナ戦争では、74式と同世代であるレオバルト1やT-62も実戦投入されています。戦闘継続能力の維持が必要と見なされた時代の中で、74式の真の引退は先になりそうです。

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