インドメディアによると、ロシアが自国製の超音速戦略爆撃機、ツポレフTu-160Mをインドに対して供給するとオファーを出したそうです。これが実現すれば、中国やパキスタンが懸念を示すことは必至。ただ、同様の動きは過去もあったようです。
ロシアがインドに最新鋭の戦略爆撃機を譲渡か?
インドの現地メディアによると、ロシアが自国製の超音速戦略爆撃機、ツポレフTu-160Mをインドに対して供給すると、オファーを出したそうです。
Tu-160は世界でも最も高性能な大型爆撃機の一種であり、超音速巡航能力を持ち、航続距離は約1万2000km。兵装搭載量は40tもしくは巡航ミサイル12発にも及びます。2024年現在、この機体を運用しているのはロシア空軍のみであり、大陸間弾道ミサイル(ICBM)、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)と並ぶ核抑止三本柱の一角を担っているほか、対ウクライナ戦争においても巡航ミサイルの発射母機として実戦投入されています。
原型の開発時期こそ旧ソ連時代ですが、このたび報じられたTu-160Mは2022年に初飛行したばかりの最新鋭機で、現在ロシア空軍向けに再生産が行われています。Tu-160Mの導入は、その高性能さから、いかなる国にとっても非常に大きな戦略的決断を意味します。ロシア、インドの両国にはどのような思惑があるのか見てみましょう。
ロシアに関しては、2022年2月のウクライナ侵攻以降、日本やアメリカをはじめとする西側諸国の経済制裁をものともせず、むしろ地政学的な優位性を維持するために新たな戦略を模索しています。
そうしたなかインドは、ロシアにとって西側諸国に代わる資源輸出先であり、Tu-160Mのインドへの売却は、単なる兵器取引にとどまらず、両国間の戦略的パートナーシップを深化させ、南アジア地域におけるロシアの影響力を拡大するための重要な一手を意味しています。
なお、インドは世界最大の武器輸入国であり、これまでの主要な輸入先はロシアでした。しかし2024年にはロシアのシェアは36%に落ちており、60年ぶりに50%を下回っています。これは、相対的に西側諸国やインド自国の軍需産業で賄う割合が上昇していることを示しており、兵器類については明らかに「脱ロシア」化の傾向を見せていると言えるでしょう。
過去にはTu-22M大型爆撃機を検討したことも
Tu-160Mは他の航空機と同様に、運用を継続するためには、広範な技術的専門知識、継続したパーツの供給、兵站支援が必要となります。これはインド空軍にとって大きな負担となるのは間違いありません。ただロシアからすれば、貴重な外貨獲得手段を長期間にわたり維持できるとも言えます。Tu-160Mは落ち込んだシェアの回復に大きな一手となると考えられます。
一方、インドは現在の主力であるスホーイSu-30MKI多用途戦闘機などにTu-160Mを加えることで、対地攻撃能力を大きく強化することが可能になるため、インド太平洋地域に対する強力な抑止任務と長距離攻撃を遂行する能力を獲得でき、パキスタンや中国をけん制できるでしょう。これにより地域大国としてのインドの地位向上を図ることが可能です。
とはいえ、インドが実際にTu-160Mを導入するかどうかは、いまだ確定していません。インドは2000年頃にもロシアからTu-22M大型爆撃機の購入を検討したことがあるものの、そのときは高コストなどを理由に断念しています。Tu-160Mの最大離陸重量は270t以上あり、単純比較ではTu-22Mの2倍にあたります。すなわちTu-22Mよりもさらに高コストになることは避けようがなく、コストは導入にあたっての最大の問題になると考えられます。
仮にインドがTu-160Mを導入した場合、中国とパキスタンはこれを面白く思わないでしょう。中国はH-6大型爆撃機というカウンターパートが存在しますが、パキスタンにはありません。特にパキスタンにおいては様々な分野で小さくない反応を引き起こすのではないかと推測されます。