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「見たことないカワイイ車!」が、どうして“フツーの軽”になっていった? 偏愛で語るホンダ「トゥデイ」の13年

乗りものニュース 2025年1月8日 18時12分

ホンダの歴代軽自動車のなかでも特に鮮烈な印象を残した「トゥデイ」。ヒットを記録し、さらに“幅広いユーザーを取り込む”進化をしていった結果、なぜか“フツーの軽”になっていったのも事実です。今なお根強い人気を誇るモデルを振り返ります。

「漢の軽」の時代に出てきた「カクカク欧州車っぽい軽」

 1980年代中盤の軽自動車は、それまでの随所に「角」があるようなカクカクしたデザインから、丸みを帯びたモデルに移り変わりつつありました。筆者個人的にはカクカクしたデザインも好きなのですが、メタリックカラーのモデルが多く、どことなく男っぽい印象。そんな中で、各社から登場し始めたソリッドカラーの丸いデザインの軽自動車は「新しい時代」を予感させました。

 中でも際立って「新しい」「かわいい」と感じさせたのが、1985年に登場したホンダの「トゥデイ」でした。

 遠目に見ると、4年前に「モトコンポ」とのセットで登場したホンダ「シティ」にもよく似たデザインですが、シティよりもはるかに背が低くてコンパクト。でも、何かそれまでの軽自動車とはまるで違うポップな印象で、まだ中学生だった筆者も街中で見かけるたびに「見たことがないかわいいクルマが出たな」とトゥデイを見ていたことを思い出します。

――なのですが、大人になり、その頃よりもはるかに知識が上積みされた自分が今、初代トゥデイを見直すとハッとするところもありました。同時期に走っていたフィアット「リトモ」(1978~)に超そっくりではありませんか。

 改めて見直してビックリしましたが、当時は日本でそう多く走っていなかったリトモのデザインを多分に真似た部分があると思います。しかしそうであっても、前例がないうえでも「欧州車的なデザイン」をいち早く取り入れ、アプローチしたという意味では、トゥデイはやはり歴史に残るモデルだったと感じます。

 トゥデイはかわいさだけでなく、居住性にも優れていました。

 エンジンスペースをごくタイトにすることでショートノーズとし、合わせてロングホイールベースとすることで、何よりも室内空間を広く取っているのが利点。また、後部座席をベンチシートとし、これを倒せばさらなる積載力も発揮します。

 それでいて、やはりどこかフィアット的なファブリックシートもかわいらしく、女性にウケないはずがないモデルだと思います。

 結果、このトゥデイの初代は発売翌年の1986年にグッドデザイン賞を受賞。後に様々な派生を生み出すことになりました。

「カワイイ路線」と「漢の路線」

 ところで、なぜかホンダは歴史的に、「初代で好評価を得たクルマ」が、以降の派生モデルなどで迷走し始める傾向があると感じています。あくまでも想像ですが、以下のような流れから来ることなのかなとも思います。

ホンダの偉い人「最近トゥデイが売れてるらしいな。グッドデザイン賞まで取って」
トゥデイ担当者「そうなんです。おかげさまで」
ホンダの偉い人「それはおおいに良いことだが、売れてるんならもっと売らないと。販売向上チームを作って、みんなの意見を反映してさらに売れるようにしよう」
トゥデイ担当者「……は、はい!」

 しかし、多くの意見を取り入れると、得てして本来の良さが薄まるのも事実。結果、「初代でみんなが評価したのは、そんなところじゃないような……」と思う方向に向かっていくことがホンダには多いように感じるのですが、これは筆者だけが思うことでしょうか。

 トゥデイは1987年にポシェットという特別仕様車が展開されますが、そのカラーは“サーティワンアイスクリーム的なミントブルー”でした。

 時代的にはもう流行りが終わりつつあったパステルカラーを採用し、ママさん向けのような路線が打ち出されました。

 一方、1988年からトゥデイは男性向けをも意識してか、初代のリトモ的なかわいい丸目のヘッドライトが廃され角目ライトになりました。トゥデイらしさが薄まり少し残念に思う一方、全車に3気筒ハイパー12バルブ新エンジンおよび新設計のオートマトランスミッションを搭載。さらにはオプションで電動サンルーフなどを選択することもできました。

 初代で評価を受けたトゥデイから、さらに「女性」「男性」双方のユーザーを取り込むべく、はっきり区分けしたモデル展開を目指していったように映ります。

 これが良いかどうかは人それぞれ感じ方が異なるはずですが、筆者個人的には、やはり初代のデザインや印象を崩さず、走行性・安全性のみをブラッシュアップしてくれていたら……とつい思ってしまうのも正直なところです。

8年目にしてフルチェン! 「え、フツー…」

 こうマイナーチェンジを繰り返していたトゥデイでしたが、ここまでの試行錯誤で明確な答えを見つけたのか、累計売上が71万台となった1993年、ついにフルモデルチェンジ。初代の面影はヘッドライトが丸目に戻った程度でしたが、コンパクトになりながらも流れるようなデザインは、「新しいトゥデイ」として十分な完成度に見えます。

 また、走行性・安全性ははるかにアップ。「軽自動車がセカンドカーとして使われている」点に着目し、コンパクトにさせたことで、積載性よりも快適な運転性能を優先させていることがわかります。トランクリッドが“下に開く”点も特徴的でした。

 初代とは大きく変わったデザインながらも、ホンダらしい優れたデザインで良いなと思うのですが、この2代目もまた「やっぱそっちに行くんすね……?」的な展開に。

 複数回のマイナーチェンジを経て、だんだ“普通の軽自動車”になっていき、1996年のモデルでは紫色になってしまいました……。今になって思えば先のミントグリーン同様、トゥデイはママさんを意識せざるを得なかったモデルのようにも感じます。

 結果的にトゥデイは1998年に姿を消すことになりました。もっともこれは軽自動車規格変更の影響であり、ホンダにおけるトゥデイのラインは、3代目「ライフ」に集約されることになりました。

 他方、いまだにコアな人気を誇るのも事実で、トゥデイをベースにしたレースが今日も密かに行われており、YouTubeなどでもその様子を見ることができます。

 特にホンダオート岡山販売によるカスタムトゥデイは、サーキットでフェラーリやポルシェを煽って追い抜く「世界最速軽自動車」と言われ、660ccにして250馬力をも発揮するオバケマシンとしても注目されています。

 こんな様々な逸話のあるトゥデイ。かつて乗っていた人も、そうでない人も改めてトゥデイの面白さに注目されてみてはいかがでしょうか。

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