戦闘能力を持った無人機、いわゆるUCAVが急速に広まるなか、制空戦闘機に関しても無人機の方が格闘戦(ドッグファイト)で優位と言われます。しかし、高G機動に耐えられるような機体には大きなデメリットもあるようです。
現代戦に必須の存在になった「UCAV」
昨今の無人航空機(UAV)は、ウクライナや中東での戦いなどに代表されるように、ミサイルや爆弾などを搭載し、目標に対する攻撃が可能なものが、もはやメジャーになりつつあります。
こういった無人機は、「無人戦闘航空システム(UCAV)」と呼ばれたりもしますが、では一段上の性能を持つ、それこそ「無人戦闘機」と呼べるだけの能力を持った機体というと、いまだ登場していません。
しかし、各国では将来的に有人戦闘機の任務を部分的に担うことが可能なUCAVの開発が進んでいます。UCAVは有人機にはない多くの利点を有し、未来の航空戦において重要な役割を担うと予想されていますが、無人戦闘機と呼べるUCAVはどのような能力を持った機体となるのでしょうか。
現状、戦闘機の飛行性能は特に旋回能力において限界に達しており、おおむねその荷重制限は7~9Gとなっています。これは第二次世界大戦時の戦闘機からまったく進歩していないと言えます(ただし旋回を継続できる時間は圧倒的に長くなった)。その理由はもっぱら人間側に問題があり、7G以上の旋回は肉体に負担を強いて最悪失神に至る恐れがあるため、9Gともなると瞬間的にしか発揮できないことに起因します。
一方、無人戦闘機の最大の特徴は「パイロットが搭乗しない」という点に集約されます。したがって無人戦闘機は人間のG制限から解放され、有人機では実現困難な超高G機動が可能になることはほぼ間違いないでしょう。
10Gを超える機動は、有人戦闘機を迅速に捕捉し攻撃する、またはその逆で、有人戦闘機からの攻撃を回避するうえで非常に有効な手段であり、ドッグファイトは無人戦闘機の天下になるだろうと予想する論調も少なくありません。
しかし、無人戦闘機の超高G機動は、技術的な課題が山積しており、容易に実現できるものではないようです。まず、超高G機動を実現するためには、機体構造を大幅に強化する必要があります。高いGによる変形に耐えられるよう機体をより頑丈にするためには、構造を重く造らなければなりません。ただ、それによって次のようなデメリットが新たに生じます。
高Gに耐えられる機体構造、本当に必要?
機体構造が頑丈になればおのずと機体重量も増え、最大離陸重量に対する搭載量の割合が減少するでしょう。そうなると、とうぜん航続距離や滞空時間に影響が出ます。仮に、同規模の燃料搭載量を確保しようとするなら、兵装の搭載量を減らさざるを得ません。
また、重量増加は旋回を継続できる時間も減少させます。無人戦闘機は人間が搭乗しない分、生命維持装置や射出座席・コックピットを省略し軽量化することが可能でしょうが、そのメリットを食いつぶしてしまうことにつながります。
瞬間的な旋回能力の向上がもたらすメリットが重量増加のデメリットを上回るのかというと、それも微妙なところです。機動性をいくら向上させたとしても、空対空ミサイルが発揮する数十Gの旋回能力には及びません。現在の技術では、ミサイルの旋回能力は戦闘機のそれを大きく上回っています。したがって、戦闘機自体が超高G機動を行うよりも、ミサイルにその役割を担わせる方が現実的です。
結論として、無人戦闘機に超高G機動を行わせることは技術的には可能ですが、それを実現するための代償が大きいため、実際にはあまり求められていないのが現状です。
現実的に求められる無人戦闘機の役割は、パイロットの生命を守るために有人戦闘機では高リスクな任務に投入することや、長時間の監視任務を遂行すること、そしてミサイルや他の武器システムとの連携を強化することなどでしょう。
たとえば半自律型の僚機として有人戦闘機から命令を受けながら連携する、自機の位置を暴露する危険があるレーダーを使用しデータリンクで情報共有する、敵機を攻撃するためミサイルの射程圏内まで前進する(相手のミサイルの射程に入る)などが考えられます。
今後、材料工学や制御技術の進歩により、無人戦闘機の超高G機動が実現される可能性もあるかもしれませんが、当面そうした能力が求められることはないと、前述したような理由から筆者(関 賢太郎:航空軍事評論家)は見ています。