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急行電車も「ボタン押すだけ」 いきなり主要路線から「自動運転化」踏切たくさんでも大丈夫? 京王に聞く狙い

乗りものニュース 2025年1月14日 9時42分

京王電鉄は電車のワンマン運転を見据え、井の頭線で2025年春に自動運転の実証試験を始めます。距離が短い支線からの導入ではなく、いきなり主要路線で始める理由や舞台裏を京王の担当者が明かしました。

ボタン2つを押して自動運転 京王井の頭線で

 京王電鉄が渋谷駅と吉祥寺駅を結ぶ井の頭線(12.7km)で、自動列車運転装置(ATO)を搭載した1000系の一部編成を使って、2025年春に実証試験を始めます。2020年代中ごろには井の頭線でホームドアの整備を、20年代後半に自動運転システムの導入を完了して実用化。運転士だけが乗務する「ワンマン運転」に切り替えます。

 導入するのは「半自動運転」とも呼ばれる「GoA(Grades of Automation)2」です。運転士が発進する際にボタンを押せば、速度調整と次の停車駅での停止は自動運転システムが担います。

 ATOを導入する狙いについて、担当している京王電鉄車両電気部スマートモビリティ担当課長の花井 計さんは「乗務員の人員確保が本当に大変なのに対応するのはもちろん、既に整備している自動列車制御装置(ATC)を活用し、最新技術の自動運転に積極的に取り組んでいる姿勢を示したい」と説明しました。

 また、自動運転に切り替えれば「人間の運転より均質な運転が可能になって定時性が改善し、省エネルギー化にも寄与するとみている」とも。試験では、人が運転した場合と比べて定時性が向上するか、消費電力量が低減するかといったことについてデータを計測して確かめます。

 運転台のユニットは改造時に取り換え、自動運転用の2つのボタンと手動運転時のために加減速するワンハンドルマスコンを設けます。

 始動には運転士が2つのボタンを同時に押すことが必要で、ボタンが1つだけではないのは「例えば運転士がくしゃみをするなどして誤って押してしまうのを防ぐため」だそうです。

短い支線からじゃないワケ

 GoA2は東京メトロ丸ノ内線、南北線、有楽町線、つくばエクスプレス(TX)といった一部路線で既に実用化しています。花井さんは「井の頭線の場合は、踏切があるのが今までの導入路線とは毛色が少し違うと考えています」と言及しました。

 ところで、なぜ井の頭線へのATO導入を京王線より先行させるのでしょうか。花井さんは「井の頭線は全て5両編成の電車が最高速度90km/hで走っているのに対し、京王線は8両編成と10両編成の2種類あり、最高110km/hで走っている」ため、難度が高くなると指摘しました。

 最高速度が高い場合には「駅に向かってブレーキをかけるタイミングが早くなるため、自動運転に対応する地上設備をより幅広く置かなければいけなくなる」そうです。さらに京王線は8両と10両の2種類の編成があり「それぞれ停止目標の位置が違い、どちらにも地上設備を置かなければいけなくなる」とのこと。

 急行と各駅停車だけの井の頭線と比べて、京王線は種別が多く、都営地下鉄新宿線と相互直通運転をしている点も異なります。

 そこで、京王線より導入のハードルも低い井の頭線から実用化し、試験結果も生かして京王線にも展開するということです。京王線では2030年代前半にホームドアの設置を完了し、2030年代中ごろに自動運転を実用化する計画です。

 筆者(大塚圭一郎:共同通信社経済部次長)は、ともに最高速度が70km/hの支線の競馬場線(東府中~府中競馬正門前)と動物園線(高幡不動~多摩動物公園)の両線の方が、主要路線の井の頭線より自動運転が容易ではないかと考えました。

 他の大手私鉄の事例を見ても、南海電気鉄道が2023年8月に自動運転走行試験を始めたのは和歌山港線(和歌山市~和歌山港、2.8km) 、東武鉄道が自動運転に対応した新造車両を導入して28年度以降に検証運転を実施するのは大師線(西新井~大師前、1.0km)と、ともに短距離の支線です。

 なぜ支線を優先しないのかを花井さんに尋ねると、「ともに手動でのワンマン運転を既にしているため、自動運転の導入によるワンマン化には、井の頭線の(優先の)方が良いと判断した」との回答でした。

“イレギュラー停車”にも自動対応!

 井の頭線での自動運転の実証試験に使う1000系には運転士と車掌が乗り込み、回送列車として昼間や夜間に走ります。花井さんによると「加減速の性能や、駅での停車時の定位置停止装置(TASC)の精度などについてのデータを取る」そうで、担当する京王社員やメーカー関係者らも乗車します。

 試験時は急行の停車駅に停めたり、各駅停車で走らせたりします。それらはもちろんのこと、「急行の臨時停車駅である井の頭公園、駒場東大前で停める運用パターンでも試験をして対応させます」と話しました。

 1000系は29編成が在籍していますが、ATO改造で運用は足りるのでしょうか。花井さんによると「平日朝のラッシュ時の最大運用数が25編成で、4編成は余分にあるので今回の改造や、検査があっても足ります」との解説でした。

 一方、京王線で2026年初めに営業運転を開始する新型車両2000系は、自動運転開始を見据えて「準備工事をしたような形にし、その後の自動運転導入がそれほど難しくないようにする」そうです。

 京王は全体のホームドア設置を含めた自動運転整備に総額951億円を投じる計画です。社運を賭けた一大プロジェクトと言っても過言ではなく、安全で定時性にも役立つ自動運転が実用化されることが期待されます。

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