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みんな撮り鉄!? 鼻先を列車が走る「驚愕スポット」行ってみた! SNS普及によるトラブルも

乗りものニュース 2025年1月13日 14時12分

ベトナムには、数十cmの眼前を鉄道車両が通過する「トレイン・ストリート」と呼ばれる場所があります。そこは、いわゆる“映える”写真が撮れると話題になった観光地で、ゆえにオーバーツーリズム問題も含んでいました。

ベトナム鉄道の超SNS映えスポット

 ベトナムの首都ハノイには、鉄道と商店街が同居した観光スポット「トレイン・ストリート」という場所があります。

 そこはハノイ市の旧市街地を走る鉄道線路の沿線にあり、線路の両端を囲むようにして建物が並んでいます。線路と建物の距離は非常に近く、そこを走る鉄道車両は建物のあいだをスレスレで通過します。しかも、路線内は通り沿いの建物や商店にアクセスするために開放されているため、運が良ければ、目の前数十cmという超至近距離で列車を見ることができるのです。

 鉄道車両が建物や人混みを縫うように走行する光景はSNSなどでたびたび話題となっており、現在でもハノイ市内屈指の有名観光地となっています。今回、筆者はこの「トレイン・ストリート」を2024年のクリスマスシーズンに訪れてみました。

 ベトナムにおける鉄道の一大ターミナルでもあるハノイ駅を拠点に、線路は市内を南北に縦断しています。そのため、駅を中心に北側と南側それぞれに「トレイン・ストリート」と呼ばれる商店が密集した通りがあります。両者は距離にして数百mで、商店の大部分は飲食店となっており、列車が通行する時にはその光景を間近で見られるように店の軒先に椅子とテーブルが並べられていました。

 路線内への立ち入りは、線路と交差する踏切か、もしくは線路脇にある入り口から可能です。踏切付近には警察官が立ち、線路への立ち入りを禁じる警告標識もありましたが、筆者が訪れた時には誰もが自由に立ち入ることができました。

大迫力の撮り鉄体験が可能!

 列車はこの通りを1日に7本ほど通過しており、飲食店によって軒先に列車の時刻表が掲示されていました。もっとも、店舗スタッフによると平日と週末で運行本数は異なるそうで、また時刻も遅れることが当たり前だとか。事実、筆者が訪れた時も最大で1時間ほど遅延していました。

 列車が実際に通過する際には、店舗のスタッフたちが笛や警告音を鳴らして通りの人々に教えてくれます。

 飲食店では、軒先のテーブルを片付け、客や通行人には車両に接触しないよう注意を促し、通りを歩いている人々にも通りから出るか、安全のために店舗の中に入るよう指示があります。路線内の安全管理は警察などの行政機構は関与していないものの、代わりに店舗のスタッフ達が自警団のように行っていました。

 通行する列車は数百m先のハノイ駅で停車するために、徐行で警笛を鳴らしながら進入してきます。飲食店の軒先の席を陣取れば、目の前を列車が通過していくという大迫力の光景を楽しむことができるでしょう。

 ちなみに、これら飲食店の価格はハノイ市内の一般的な店より若干高めで、ベトナム名物のエッグコーヒーは5万ドン(約300円)、コムチン(ベトナム風チャーハン)などの料理は10万ドン(約600円)程度でした。しかし、列車見学という意味では、これら店舗の軒先に設けられた席はベストスポットで、運行時刻も遅れることが当たり前であることを考えれば、場所代込みで妥当な値段だといえるのかもしれません。店舗によっては2階席も用意されており、列車の通過を俯瞰で楽しむこともできました。

ここもオーバーツーリズム問題の影響が

 現在では立派な観光地となったこの場所ですが、ここに至るまでには紆余曲折があったそうです。

 沿線の建物はもともと一般の住宅地として整備され、この地に住む人々は線路とその脇の道を生活道路として利用していました。南側の通りには線路脇の小道にしっかりと通りの名前が付けられています。

 当初は、それら住民を対象とした飲食店や商店がこの通りにできたのですが、その中のいくつかが観光客向けの営業を始めると、ここに来れば眼前を列車が走り抜けるという面白い光景に出会えるとして話題になり、昨今のSNSの隆盛に乗る形でいわゆる「映えスポット」として拡散。こうして現在の観光地として成長してきた模様です。

 しかし、有名になって多くの観光客が訪れるようになった結果、人々が線路内を無秩序に往来するようになったとか。ベトナムメディアの報道によると接触を避けるために列車が緊急停止する事態がたびたび起きるまでになったといいます。

 2019年には安全な運行ができないとの判断から、列車がルートの変更を行う事態も発生しており、大挙して訪れた観光客によって地元住民の生活が悪影響を受けるオーバーツーリズム状態へと変貌します。これを受け、当局は同年に安全への懸念から通りの飲食店を閉鎖させ、通りへの観光客の立ち入りも禁止して、通りの入り口にはバリケードまで設置するまでに至った模様です。

 そのため、この通りに観光客が再び入れるようになったのは比較的最近で、「トレイン・ストリート」の営業が再開したのは2023年になります。2024年12月現在は観光客の立ち入りに制限はないものの、ベトナム国内の報道を追っていくと、当局はこの通りの商店に対して警告や規制を定期的に行っており、ハノイ市観光局もここでの団体ツアーを企画しないよう、旅行代理店に要請したことがあるそうです。

「トレイン・ストリート」は非常に貴重な観光資源であり、ここで営業する店舗は多くの雇用と経済効果を生み出しています。その一方で当局は安全上の懸念とオーバーツーリズムについて問題視し続けており、今後も事態の推移によっては入場規制などが設けられる可能性もあります。

 この場所は鉄道好きから一般の観光客まで、さまざまな人々が楽しめる観光地といえますが、当局の判断で以前の状態に戻る可能性が高いため、訪れる場合は事前の下調べを行うことをオススメします。

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