ロシアがウクライナへ対し特別軍事作戦を実行してから3年が経とうとしています。アメリカはM1戦車を供与していますが、最前線のウクライナ兵からは現代戦に対応していないとの声が。アメリカは耳を傾け、戦訓を反映できるでしょうか。
アメリカ軍は戦場にはいない
「アメリカの戦車兵は速やかに行動すべきだ」
「戦場の現在の脅威を考えると、彼らの戦車は薄すぎて脆弱だ。我々の経験を考慮し、近い将来起こりうる紛争で損失を避けるために、戦車を緊急に保護すべきだ」
西側から供与されたM1A1エイブラムス戦車を運用しているウクライナ陸軍第47独立機械化旅団のある戦車士官が、アメリカのシンクタンクのインタビューにこう答えています。
「我々はこの戦車を気に入っており、アメリカに非常に感謝している。(中略)砲手ひとりあたり約100発という豪勢な射撃訓練と、戦車に関する全般的な知識を得ました。(中略)しかし、アメリカの教官と軍は現代の戦場の脅威について全く知りませんでした。そして、今でも知りません。私はアメリカの戦車兵の何人かと連絡を取り、彼らと情報を共有しようとしています」
2022年2月にロシアが特別軍事作戦を開始して、まもなく3年。戦争が始まった当時、ウクライナの各メディアは火炎瓶の作り方と使用法を伝えており、満足な装備もないなか、ロシア軍戦車を迎え撃つ悲壮な覚悟のほどがうかがえました。
それから「ジャベリン」など対戦車ミサイルが供与され、いまでは戦車や戦闘機も。3年近く経過して様相はすっかり変化しました。
FPV(一人称視点を用いた遠隔操縦)ドローンの大量投入も戦況を変えました。安価で対戦車ミサイルなどよりも扱いやすいFPVドローンは戦車にとっては難敵で、戦車の戦い方は大きく変化しました。もう誰も火炎瓶の作り方など覚えていないでしょう。
戦訓からM1を改造したウクライナ軍
ウクライナ軍には「世界最強戦車」と喧伝されたM1A1エイブラムス戦車がアメリカから31両供与されました。しかし、ウクライナの戦局は必ずしも好転していません。M1は2024年2月に実戦参加が確認され、3日後に最初の1両が撃破された画像がSNSに投稿されています。
民間OSINT(公開情報調査)サイト「オリックス」によれば、少なくとも17両が失われたそう。12月下旬にロシア軍のFPVドローン攻撃を受けるウクライナ軍のM1の動画が、ロシアのテレグラムチャンネルに投稿されました。
少なくとも1発はコープゲージ(ドローンや対戦車ミサイルを防御する目的で装備された格子状の追加装甲)に引っ掛かり、1発が反応装甲ブロック(ERA)によって無効化されています。しかし続いて2~4発が連続して命中し、戦車は行動不能になってしまいます。これは2分以内の出来事であり、ロシア軍のFPVドローンによる対戦車攻撃戦術が向上していることを示しています。
乗員は無事だったようで、FPVドローンの音が聞こえなくなったタイミングを見計らって戦車からの脱出に成功しています。必死でFPVドローンの追跡をかわし徒歩で友軍にたどり着いたそうです。
ウクライナ軍幹部は、「乗員が生き残ったのは、M1のブローパネルのような乗員防護設計と、戦訓を学んだウクライナが施した改造の組み合わせのおかげである」と述べています。こうした実戦経験者の証言は貴重です。
ウクライナ軍は戦訓から、供与された戦車にコープゲージやERAを追加して「ウクライナ戦線仕様」に改造しています。いわゆる「世界最強戦車」も例外ではありません。このウクライナ戦線仕様への取り組みはロシア軍の方が先行しており、戦地急造で手造り感満載の異形AFV(装甲戦闘車)が多く登場するようになりました。この仕様はウクライナ軍でもロシア軍でもすでに標準化されています。
ドローン攻撃 現状はロシアが一枚上手か
コープゲージに覆われる戦車の見かけは良くありませんが、これは多くの血から得たものです。ウクライナ軍幹部は、アメリカ軍は現代戦認識のアップデートを急がなければならないと強調しています。
なぜなら、ロシア軍のFPVドローンは電波妨害の影響を受けない有線(光ファイバー)誘導と夜間暗視カメラを搭載するようになっており、アメリカ軍が想定するFPVドローン対策自体が時代遅れになっているためです。
なお、M1がウクライナで使うには重すぎるという指摘は、否定しています。ただ、ウクライナ戦線仕様への改造で、さらに2~3t増量しているのは事実のようです。
M1をはじめ、FPVドローンの攻撃で爆炎を上げる戦車の映像はSNS上に溢れていますが、切り取り編集された宣伝用作品でしかないことに注意が必要です。映像に表れる「戦果」の影でどれだけのFPVドローンが無力化され、オペレーターが犠牲になっているかは不明であり、FPVドローンの効果については今後の研究分析を待たなければなりません。
しかし緊急にやるべきことははっきりしています。主砲に140mm砲を搭載するのは結構ですが、戦車にはコープゲージやERAを付けることです。航空優勢、各職種支援下の行動という従来の戦術も見直さなければならないでしょう。
今のところコープゲージを装備したアメリカ軍戦車は登場していません。アメリカは供与した戦車とノウハウ以上の実戦データおよび戦訓を、犠牲を出さずに受け取ることができているはずです。しかしそれを巨大組織のアメリカ軍が「速やかに行動」して反映できるかは別の問題です。