世界の紛争地で活躍するのがピックアップトラックに武装を施した「テクニカル」と呼ばれる即席の軍用車です。このテクニカルを日本国内で作った人を見つけました。
TVでよく見る武装SUVの正体
中東やアフリカ、ウクライナなどの紛争地域では、民生用のSUVやピックアップトラックの荷台に機関銃や対空機関砲、無反動砲などを備えた即席の軍用車両を見かけます。ニュース番組などで目にすることが多いこれらの車両のことを「テクニカル」と呼びます。
テクニカルは特殊部隊などを除くと先進国の正規軍が使用するケースは少なく、その多くが発展途上国の軍隊や治安組織、PMC(民間軍事会社)、傭兵、民兵、ゲリラ、テロリスト、マフィア、麻薬カルテル、密輸組織などの武装集団で使われているようです。
テクニカルのベース車として人気を集めているのが、トヨタ「ランドクルーザー」や「ハイラックス」です。これらは、紛争地域で戦う前線の兵士たちにとっては「頼りになる戦友」として愛用されていますが、なぜトヨタ車が使用されるかと言えば、兵士たちが何よりも重視する兵器としての使用実績、専門用語で言う「バトルプルーフ」があるからでしょう。
トヨタ車ベースのテクニカルが初めて華々しい戦果をあげたのは、1978~87年のチャド・リビア紛争と言われています。これはフランスの支援を受けたチャド政府軍と、リビアと連合軍を組んだチャド反政府勢力との間で戦われた内戦で、紛争末期(1986~87年)に両勢力ともトヨタ製のピックアップトラックを軍用車両として大量に実戦投入したことから、のちに「TOYOTA WAR(トヨタ・ウォー)」と呼ばれるようになりました。
日本国内で機関銃付き「テクニカル」発見!
とはいえ、このような武装車両を「テクニカル」と呼ぶようになったのは、1988年のソマリア内戦以降です。とあるNGO(非政府組織)が同地にボランティアスタッフを送る際、政府から民間の警備要員を連れて行くことを禁じられたことから、要員保護のため政府支給の「技術支援助成金(technical assistance grants)」を利用して、現地で民兵をガードマンとして雇用したことが由来とされています。
その際、雇った民兵(ガードマン)が武装した民生用ピックアップトラックを用いたことで、この種の車両を「テクニカル」と呼ぶようになったとか。
そのようなテクニカルは市販車に武装を施しただけなので、製作に特別な技術などいらず、誰でも低コストで簡単に仕立てることが可能です。そのことを筆者(山崎 龍:乗り物系ライター)が改めて認識したのは、2024年春に千葉県千葉市で開催された、アメ車を対象にしたイベント「SPRING Party!」でのことでした。
新旧の様々なアメ車が並ぶ会場のなかで、一際異彩を放っていたのがテクニカル仕様のトヨタ「ハイラックス」です。後付けされた銃架には軽機関銃「ミニミ」の遊戯銃が搭載され、荷台には星条旗を掲げていました。
アメリカ軍と雇用関係にあるPMCは、フォード「F-150」やシボレー「シルバラード」などのアメリカ製フルサイズ・ピックアップトラックを用いるのが一般的で、比較的小ぶりなトラックを使用する場合でも、フォード「レンジャー」やダッジ「タコマ」などのミッドサイズ・ピックアップトラックを使うのが一般的でしょう。
ただ、そうはいってもテクニカルのベース車にルールなどなく、戦場では入手し易いクルマが選ばれるため、トヨタ製「ハイラックス」が戦場で使用されていないとは断言できません。
こりゃ世界で流行するはずだわ…
このテクニカル仕様の「ハイラックス」は、過酷な戦場での使用を想定してなのか、丈夫なアニマルバンパーと無骨なルーフラックを取り付けており、それらはドアミラーとともに視認性を低下させるマットブラックで塗られていました。また、車体の各部にはフォグランプと作業灯を増設して実用本位の軍用車らしい出で立ちとなっています。
オーナーは相当なミリタリーファンらしく、「ハイラックス」の前には、ボディアーマーやアリスパック、マガジンポーチ、カスタマイズされたM4カービンの遊戯銃などの自慢のコレクションを陳列するとともに、自身もPMC(民間軍事会社)のオペレーター(警備員)という出で立ちで愛車の傍らに佇んでいました。
筆者は、仕事柄、各地で開催されるカーミーティングやイベントに取材で訪れることが多いのですが、このようなカスタムカーを見たのはこのときが初めてです。
ただ、市販車をベースにそれほど大きな改造を施すことなく、それでいて軍用車両に負けず劣らずの装備を施し、無骨な実用車に仕立てられているのを見たことで、世界中の紛争地帯でピックアップトラックやSUVが大量に軍用車両として用いられるのはなぜなのか、改めて実感することができました。