『機動戦士ガンダム』シリーズにはMS以外にも印象的な宇宙艦艇が数多く登場します。とはいえ、なぜ登場する艦艇はすぐさま撃破されてしまうのに、防御がおろそかなのでしょうか。
宇宙軍艦の防御が薄い理由
人気アニメ『機動戦士ガンダム』シリーズには、人型機動兵器のモビルスーツ(MS)以外にも多くの兵器が登場します。特に「ホワイトベース」をはじめ、「マゼラン」や「グワジン」「ムサイ」といった宇宙軍艦は、戦術的にもドラマ的にも大きな存在感を持ちます。
『ガンダム』シリーズには、「ミノフスキー粒子」という架空の特殊な粒子が頻繁に登場しますが、この影響でセンサーに大きな制限がかかるとされており、劇中では戦闘の多くが目視で目標確認ができる有視界という近距離で発生します。なお、劇中では宇宙軍艦が敵艦隊を発見した後、MS隊が発進。両軍艦艇は支援砲撃を行ったりすることも多いことから、宇宙軍艦が指揮系統の中心的存在であることは明らかです。
つまり、『ガンダム』世界の宇宙軍艦は「指揮系統の中心」で、かつ「補給拠点」だといえるでしょう。その観点でいえば、宇宙軍艦は本来、高級将校を含む多くの人員が搭乗した重要な防衛拠点のはずですが、特に初代の『機動戦士ガンダム』、いわゆるファーストガンダム時代では、敵MSの攻撃や敵艦からのビーム兵器(メガ粒子砲)の砲撃で簡単に沈む描写が見られます。
ではなぜ、もっと装甲を厚くするとか、ビームを阻害する何らかのバリアなどを張らないのでしょうか。
考察する前に、現実の艦艇の防御方法をおさらいしましょう。1576年に登場した織田信長の鉄甲船は、木製の船体に鉄板を張り付けることで、火矢や銃撃に対する防御力を向上させていました。そこから第二次世界大戦の戦艦や巡洋艦の時代まで「敵の砲弾より強い装甲で攻撃を防ぐ」あるいは「装甲に角度を付けることで、砲弾をはじく」といった考え方で、一貫して敵の攻撃を防ごうとしてきました。
しかし、現代の対艦ミサイルは超音速で遠距離から飛来するため、その速度と質量だけでも装甲で防ぐのは困難です。2025年現在で、艦隊防空を担うイージス艦では、装甲をほとんど施さないかわりに、高性能レーダーで攻撃を探知し、艦対空ミサイルや高性能20mm機関砲(CIWS)で敵の対艦ミサイルを撃墜したり、チャフを散布して敵ミサイルのセンサーを狂わせて、命中させないようにしたりすることなどで、それらの防空システムを装甲のかわりとしています。
一方、宇宙世紀はミノフスキー粒子で、センサーは数km~数十kmしか効果がなく、精度も下がるため、現代艦の防御方法は取れません。ホワイトベースは乗組員が目視で機銃を撃つ描写があり、敵弾に対しては装甲が防御力を発揮していますから、第二次世界大戦までの「装甲と対空砲と直掩戦闘機(→MS)」に戻ったとも言えます。
それであれば宇宙艦艇の装甲を強化し、ビームバリアを搭載すれば有効なように感じられますが、できない、あるいはしたくない理由があるのでしょう。
MSが盾代わり! ビームバリアを張れない切実な理由
宇宙軍艦に過度な装甲やバリアを搭載しない理由は「本末転倒」になりかねないことにあるのだと思われます。第二次世界大戦の水上軍艦と、宇宙世紀の宇宙軍艦最大の違いは、「戦艦の主砲でも、精度・射程ともにMSを含む目標を砲撃できる」「砲撃が距離により大幅に威力を失う」ということです。
ファーストガンダム時点でビーム兵器を防ぐ手段は装甲のほかに2つあります「ビームかく乱幕」と「ビームバリア(Iフィールド)」です。いずれも超高濃度のミノフスキー粒子を展開して、敵のビームを阻害するという防御兵器です。
このうちビームかく乱幕に関しては、ファーストガンダムでは地球連邦軍とジオン軍双方の宇宙艦艇同士の砲撃戦が始まる直前に、突撃艇などが大量に散布する描写があります。さらに、軍艦に関してもミノフスキー粒子の散布能力を備えており、戦闘時はお互いに散布しています。
この両陣営が散布した大量のミノフスキー粒子の影響もあって、遠距離でのビーム兵器は大幅に威力を弱められていると推測できます。この決定打のない砲撃戦の代わりとなるのがMSによる艦への直接攻撃で、ジオン軍が開戦序盤優位に戦いを進められた理由でしょう。現実の海戦で航空機が登場したときのように、装甲を施せない艦橋や動力部分など、弱い場所を集中して狙うことができたためです。
さらにMSは進化し、連邦軍のガンダムの持つビームライフルなど「戦艦の主砲並みの威力」と称するMS携行型のビーム兵器も登場します。これらの兵器は数発、当たり所が良ければわずか1発で敵艦を沈めることが可能です。ただMSのビーム兵器が戦艦並みなら、戦艦にそれを多数搭載した方が有利ですから、威力自体は戦艦の方が上と推測できます。「近距離でMSが放ったビーム兵器は、遠距離砲撃により、ミノフスキー粒子で減衰した戦艦主砲に近い威力を持つ」ということでしょう。
この携行ビーム兵器に関しては時代が進んで『機動戦士Zガンダム』の世界になると、百式が装備する「メガバズーカランチャー」のようにMS数機をまとめて消し飛ばす、もはや艦艇の主砲以上の威力がありそうなものも登場します。これはMSの機動性で近接しつつ、戦艦並みの高出力ビームを撃ちこむ想定なのでしょう。
こうなるとますます宇宙艦艇にはビームバリアが必要な気がします。実際にMSより巨大で局地戦などを想定されて作られたビグ・ザムのようなMA(モビルアーマー)は、Iフィールド発生装置を装備し、MSからのビーム攻撃も防げるようにしています。
ただ艦艇が使用するには大きな問題があると考えられます。MSのビーム攻撃はある程度防げるかわりに、Iフィールドを展開すると自ら発する超高濃度のミノフスキー粒子によって、自艦のセンサーやメガ粒子砲を阻害するのではないでしょうか。
先述した通り、宇宙艦艇の存在意義は「戦闘指揮」と「支援砲撃」にありますが、ビームバリアを展開してその能力が大きく阻害されるなら、任務を果たせなくなります。コストも高くなる上に、ビームサーベルなどの近接型ビーム兵器だと効果がないため、味方MSが突破されたら取りつかれて撃沈されます。装甲を分厚くしないのも、長距離ビームは減衰し、近接ビームは防げないから、やるだけ無駄という観点でしょう。つまり、バリアを装備する意味がないとも考えられるわけです。現代艦の「装甲ではなく、艦から遠いところで防ぐ」をMSがしているということです。
ビームシールドの登場で多少マシになった?
その一方でビグ・ザムや、『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』に登場するGP03デンドロビウムのようなビームバリアを備えた機体が、自分のバリアでセンサーを阻害される描写は見られません。
これは「ごく近距離であれば、センサーはあまり阻害されない(センサー有効範囲から見て、数千~数万mではMSの射撃システムが機能しています)ので、大推力とバリアで敵に近づいて、センサーが効く距離で撃つ」ということでしょう。デンドロビウムの長大な主砲は、バリアの中心から主砲位置を遠ざけて出力低下を避けたいというデザインかもしれません。
またビグ・ザムには全周囲に多数のメガ粒子砲、デンドロビウムにはコンテナに搭載された多数のミサイル兵装があります。センサーが狂っても手数で補うということです。ちなみに、ビグ・ザムの稼働時間は冷却能力の関係で20分程度と、投入タイミングが難しく、使い勝手が悪いので普及しないのでしょう。
まとめると、遠距離で宇宙艦艇が支援砲撃している段階では、ビームが減衰するので、バリアや装甲はそこまでいらない。敵MSが近距離に接近したら必要ではあるけど、味方MSが突破されて近接戦闘になったら、減衰しない近距離ビームや大口径実弾兵器は装甲では防ぎきれず、バリアがあってもビームサーベルで斬り付けられては意味がないので、やはり重装甲やビームバリアを装備する意味が少ないのでしょう。
なお時代がさらに進んだ『機動戦士Vガンダム』には、粒子をさらに収縮させ盾状にした「ビームシールド」を備えた艦艇もありますが、この時代の軍事予算は一年戦争時よりずっと小さいと考えられます。MSにもビームシールドが装備され、撃墜率が下がったため、MSの防空網を突破した敵MSが貴重な宇宙艦艇を撃沈しないために、艦艇にバリアが必要とされたと筆者は考える次第です。