中谷防衛大臣は2025年1月7日、インドネシアのジャカルタで同国の国防大臣と会談を行い、そこで「日本からの護衛艦の輸出」が話題に上がったと報じられています。同国向けは過去に頓挫した経緯がありますが、可能性はあるのでしょうか。
インドネシアに護衛艦輸出の可能性が?
中谷元防衛大臣は2025年1月7日、インドネシアのジャカルタで同国のシャフリ・シャムソワディン国防大臣と会談を行い、中国の海洋進出を念頭において、両国が海洋安全保障分野で、より一層協力関係を深めることで一致しました。
防衛省は7日の会談終了後、両大臣が関係強化の一環として、防衛装備や技術協力をめぐる防衛実務者間の協議の新設で一致したと発表しています。この発表では、具体的に何を話し合う実務者機関なのかを明らかにしていませんが、7日付の読売新聞など複数のメディアは、この機関で海上自衛隊が運用する「護衛艦の事実上の輸出」についての話し合いが主な議題になると報じています。
群島国家のインドネシアは、国連海洋法条約に基づいて沿岸国が設定できるEEZ(排他的経済水域)も約6159kmと大きいのですが、20世紀の同国における安全保障上の主な脅威は国内の共産主義ゲリラだったため、海軍の整備にはそれほど力を入れてきませんでした。
しかし海洋進出を進める中国とナトゥナ諸島などをめぐる領有権争いに見舞われ、その一方でインドネシア経済が成長して海軍を整備できる環境となったことなどから、近年のインドネシアは海軍の整備にも力を入れています。
その一環として同国は、老朽化したアフマド・ヤニ級フリゲート5隻を更新し、さらに水上戦闘艦戦力を強化する計画を打ち出していました。この計画には三菱重工業が、もがみ型護衛艦の輸出仕様「FFM」をベースとする共同開発を提案していました。
しかし、インドネシアは2021年6月にイタリアの提案を採用しています。にもかかわらず今回、日本が再度インドネシアと護衛艦の輸出について話し合いをすることになったのは、なぜでしょうか。
護衛艦輸出を「あきらめていなかった」背景とは?
実のところ筆者(竹内修:軍事ジャーナリスト)は2021年6月15日の乗りものニュースで「『日本の軍艦輸出しよう』…なぜ全然売れない? 性能だけでは× 鶏肉買って輸出した国も」という記事で、アフマド・ヤニ級の後継艦を日本が受注できなかった顛末について書きました。
インドネシアがイタリアの提案を採用したのは事実なのですが、後日この記事を読んだ商社の方から「インドネシアに護衛艦を輸出する話、あれで終わったわけじゃないですからね」と言われて、その時は「は?」と思ったものです。
今回日本が行った提案は、アフマド・ヤニ級の後継ではなく、前に述べた「さらに水上戦闘艦能力を強化する」を狙ったもののようです。
筆者は2022年11月にインドネシアの首都ジャカルタで開催された防衛装備展示会「インドゥ・ディフェンス2022」を取材しています。展示会には三菱重工業や防衛装備庁は出展しておらず、日本からは船舶の大きさ(級数)に関する登録・検査業務などを手がける日本海事協会のみが出展していたのですが、同協会の展示ブースにはFFMの模型が展示されていました。
日本海事協会の方は「日本を代表するフネの模型だから展示した」と話していました。恐らくそれはその通りなのでしょうが、今からすると、当時からFFMの輸出交渉は水面下で続けられており、FFMを来場者にアピールする狙いで日本海事協会に依頼して、模型を置かせてもらっていたのではないか、とすら思えます。
これで輸出は確実!…とはならないワケ
インドネシアがイタリア案を採用した2021年時点で、「さらに水上戦闘艦能力を強化する」ための新型艦導入をできなかったのには理由があります。2024年10月まで大統領職にあったジョコ・ウィドド前大統領が、ジャカルタからの首都移転などで経費を使いすぎて、新型艦の導入にまで手が回らなかったためと言われています。
一方で、2024年10月に就任したプラボウォ・スビアント現大統領は軍人出身で、2024年10月までは国防大臣を努めており、新型艦導入が進まなかった経緯も熟知しているものと思われます。
日本としては、ウィドド前大統領に比べて軍事力の整備に積極的と見られるスピアント大統領の就任を機会として、話をまとめたい思惑が伺えます。しかし、前に述べた1月7日付の読売新聞によれば、中谷防衛大臣が「(インドネシアが)海軍の近代化を進め、海洋抑止力を高めることは地域全体の平和と安定、繁栄に寄与する」と水上戦闘艦の共同開発案に前のめりな姿勢を見せたのに対し、シャフリ国防大臣は「安全保障に関する戦略的協力の強化などについて話し合いたい」と述べたといいます
もちろんこれらの発言だけで判断するわけにはいきませんが、日本とインドネシアの両政府の間の新型艦導入に対する姿勢には、若干温度差があるようにも見受けられます。